奪ふ男

ジョーカー 3−3 (2/4)
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 そして、恍惚とした気持ちで、足の甲へ、唇を寄せた。
「っ!! 智明っ、なに、何を」
 混乱したような声。ルリは僕から離そうと足を引き寄せようとする。けれど、僕は足首をしっかりと捕らえていたので、離れることはない。
 名残惜しく唇を離して、混乱に答える。
「ルリが言ったんじゃないか」
 彼女は絶句した。
 そして再び、僕はルリの足に吸い付いた。


 ルリが言ったことなのに、ルリ自身は受け入れなかった。何度も逃げようとした。
 だけど、
「だったら全部許してくれる?」
 と言ったら、ルリは口を閉ざした。
 その無言の否定は残念だったけれど、続けることに僕の心は昂揚していた。いや、続けることに、というよりも、続けることでルリを翻弄することに、だ。
 
 淫靡な空気が部屋を包む。
 それを打ち破ったのは、声だった。
「……谷岡さーん……? まだ着替え終わってないのー……」
「あれー? 金原さんもいないよー……? 確かこのあたりにいたのに」
「とりあえず、更衣室行ってみようか」
 複数人の女の声が聞こえてきた。ルリは息をのむ。
 どうやら水泳部の女子で、いつまでも出てこないルリのことを探しに来たのだろう。部屋のすぐ外を足音が通り過ぎてゆく。
「あっ」
 ルリのあげた声に、足音が止まった。
「……今、声が聞こえなかった?」
 ルリは両手で自分の口を覆う。
「そうかな? 気のせいじゃない?」
 足音は再び遠ざかった。
 遠くになったのを聞き、ルリは静かに安堵の息をついた。
 それからルリは、僕の手をつかんで、止めさせる。そしてごくごく小さな押し殺した声で、僕に訴えた。
「智明本当にやめて。こんなところを人に見られたら、どんなことになるか、わかるでしょう」
 こんな状態の僕とルリを見られたら、どうなるか。学校中の噂になるのは間違いない。
 だけど、
「それがどうかした?」
 声を潜めることなく、ルリに告げた。
 ルリの顔色が、暗い中でもわかるくらい、青ざめた。
 声を抑えたまま、僕にだけ聞こえるように激しく捲くし立てる。
「なにを言ってるのか、わかってるの。このままだと身が破滅するんだよ!?」
 噂は良いようには伝わらないだろうね。
 それにしたって、ルリは周囲を気にしすぎているように思った。
 周りなんてどうでもいいじゃないか。
 ルリと僕がそういう関係だと知れることは、悪くない。無視されている、なんて噂より、はるかに良いものだ。
 僕は再び、同じ言葉を口にする。
「それが、どうかした?」
 そうしてゆっくりルリの手を外して、逆に両手をマットに縫いつける。
 僕の意図がわかったのだろう。ルリは離れようと、身体をひねるようにしてもがく。
「更衣室にいなかったね。どこに行ったんだろう」
 声と足音が、再び近づいてきていた。
「……なんか、そのあたりの部屋から音がしない?」
 ルリは目を見開いて、暴れるのをやめた。
 打って変わって、僕が膝頭を撫で、それより上へ手を伸ばす。
 足音は近づく。ルリはこれから起こることに、全身を震えさせていた。
「ともあき、お願い、やめて、お願い」
 懇願に、僕は答えなかった。その代わりに膝裏に手をやり、そこへ顔を寄せた。甘噛みに、小さな声が上がる。
 両手を押さえつけられているルリは、声をこらえられないようだった。
 足音が、部屋のすぐ前まで近づく。

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