奪ふ男
ジョーカー 3−2 (3/4)
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榊は僕とルリが以前のようであることに目を丸くしているようだった。でもそれを口にはせず、
「んじゃ、見せてもらおっかな。俺全然やってないんだよね」
と答えた。
胸がざわめく。
ルリが榊に声を掛けたのは一言。顔を見たのは数秒。
だけど、ルリは、やつには真実の姿を見せるんだ。
やつだけじゃない。僕以外のもの全てに。
僕だけが、本当のルリの姿は見られない。
誰よりも欲している僕だけが。
胸が、血を吹き出すかのように激しい痛みを訴えている。呼吸するのすらつらい痛みがとまらない。苦しい。嫌だ。こんなのは嫌だ。僕が望んだのは、こんなことじゃない。
僕はルリの一挙一動に、微細な表情の変化に、本当の姿を探り続ける。
だけど、わからなかった。
どれだけ見つめても、ルリは自然に見えて、僕に自然に話しかけ、僕に自然に笑いかけてくれているように見えて、とても僕を無視したがっているようには見えない。僕の願望が、目を曇らせているのか? だとしたら、こんな役に立たない目はえぐり取ってしまおうか。
どうしたらいいんだ。
僕は、無視されている時よりももっと、焦っていた。
ルリはあれからずっと、やわらかなほほえみを僕に向けてくれる。その下にある本当の姿は、僕には見えない。
僕たちは以前のようだった。
いや、同じクラスということで、もっと近づいたように思う。……表面的には。
ルリの僕に対しての変化を感じ取ったのは、榊だけじゃない。
ルリの友人たちもそうだった。
「瑠璃子ちゃんって、金原君のこと、その、苦手なんだと思ってたよ」
眼鏡をかけた方の友人が、言葉を選びながらそう言っていた。
僕は同じ教室の少し離れた場所で、ルリがどう返答するかを考えて緊張していた。
ルリは苦笑しながら、
「ちょっと喧嘩してただけだよ」
そう答えた。
僕たちは表には、喧嘩していた幼なじみが仲直りをした、というように捉えられていた。
本当は、ルリの演技だというのに。
本当は。
もう考えたくなかった。
ルリのほほえみを真実だと思いたかった。
心を探って疑いたくなんてない。
演技を本当に、してはくれないだろうか。こんなふうに仲良くしていればいつか、それが真実になってくれないだろうか。
願望は、僕たちが話すようになってから一ヶ月も経つと、より大きく膨らんでいた。
胸の痛みは僕の願望とルリの笑みの前に、少しずつ薄らいでくる。
ほほえみが、もっと見たい。
もっと話したい。
以前のようになった僕たちだけれど、登下校は一緒ではなかった。いつの間にかそうなっていた。
僕にはもちろん、それが不満だった。
だからルリの部活が終わるのを待って、一緒に帰ろうと言おうとした。
まだ肌寒いので、水泳部といえど、まだ泳いでいない。部活動の時間に体力作りのために走り込んだりしている。
部活が終わったぐらいの時間にグラウンドに行ってみると、ルリは汗を流すためにシャワー室に行ったということだった。
水泳部に割り当てられているシャワー室は、プールと同じ建物の中にある。
その建物に行ってみて靴を脱いで中に入ると、シャワーを浴びて帰ろうとしている水泳部の連中が、続々と出てくるところだった。
その中の一人にルリのことを聞くと、遅くなっていたから出てくるまで時間がかかりそう、ということだった。
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