奪ふ男
ジョーカー 3−1 (3/5)
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僕に言葉を向けてくれたことが、純粋に、嬉しい。これで終わりだということが、本当に。こんな手紙で呼び出すくらいなんだし、もう無視する理由もない。
「……呼び出した理由、わかるよね?」
問いのためというよりとも確認のためのように訊かれた。
わからないフリをする理由はない。うなずく。
「そう。なら話が早い」
薬品の陳列している棚に背を預け、軽く腕を組み、ルリは僕をまっすぐに見てきた。
二人だけの空気が、一瞬のうちに不穏なものとなったのを感じた。
「ずいぶんなことしてくれたね、智明」
いつもと同じ周囲を和ませる表情をしているルリは、口調に皮肉なものを織り交ぜて言った。
外が次第に暗くなり、教室も影が増す。
……この一言で、ルリが話しに来た内容は、僕の想定していたものと違うのだとわかった。
かといって、具体的に何の話なのか、全くわからない。
今更、陸奥の話もないだろう。もうあれから三ヶ月も経った。ルリは会っていないようだし、僕も会っていないし、あいつのことで話すこともない。
……同じクラスになってつい頻繁に見つめていたことが気に障ったのだろうか。
だけどそんなことしょうがないじゃないか。
同じクラスになったのは五年ぶりだ。
ようやく五年経って一緒のクラスにいられることに狂喜乱舞している。更に話しかけることもできない。のに、意識せずにいられるだろうか。見つめずにいられるだろうか。耳を澄まさずにいられるだろうか。
こればっかりはどうしようもないじゃないか。
さっそくルリに弁明しようとした。順を追って話せばわかってくれる。
でも、先に口を開いたのはルリの方だった。
「何も知らない他人に言わせるなんて卑怯じゃないの」
眉をひそめた。
……何の、話だ?
他人? 誰のことだ? 榊? 西島? ルリの友達?
「……何の話か、わからないんだけど」
話の見当もつかずに問う。ルリは目を細めた。
「藤城さんのことだよ」
……名前を聞いても思い出せない。そもそも人の名前を覚えるのは苦手だけど、クラスメイトかそうじゃないのかすらわからない。とにかく、その藤城とかいうやつが、何かしたってことか?
「そいつが何かしたっていうなら、僕は無関係だよ?」
何も知らないことでなじられたらたまらない。
「しらばっくれないでよ。じゃあ、藤城さんが勝手に言ったってこと? 『智明君を無視するのはやめてあげて。あんなにいつも笑顔を向けている智明君がかわいそうでしょ? 智明君が谷岡さんと仲良くしたいって思っているのはわかるよね。それなのに挨拶すら交わさないで、智明君に冷たすぎると思わない?』――なんて」
思わず目を見開いた。
頭が展開についていかない。
何だ? つまり藤城とかいうのが、ルリに勝手に、無視するのはやめてって言ったってことか?
何のために、とかいうのはこの際どうでもいい。
確かに、僕はルリが全く口を利いてくれないことで胸が痛かった。前のように話してくれたら、と願っていた。
しかしどこの誰かもわからない人間に勝手に僕の心情を想像され、勝手に行動されるのは気分が悪い。僕自身がそれを狙って仕組んだならともかく、今回、僕はまったく関知していない。どこぞの誰かが勝手に何かをして、そして火の粉が飛んでくるなんて冗談じゃない。藤城とかいうのは、どう責任を取ってくれるつもりだ。
案の定、悪い方に話が進んでいる。
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