奪ふ男

ジョーカー 2−16 (4/6)
戻る / 目次 / 進む
「何それ。私が邪魔ってこと。私に一緒にいるなって言っておいて、自分は別なの」
「だって僕は話さなきゃいけないことがあるから。ルリがいると話せない」
 どうしてこうも、ルリはここに留まろうとするんだろう。陸奥なんて顔も見たくないと思ったって、おかしくないのに。
 そう考えてから、思い出した。
 冬休みの間、ずっとルリとは会えなかった。ルリの家に行ったけれど、ルリは部屋にこもっていたから。怪我があって外に出たくないんだろうってわかっていた。
 会えるようになったら渡そうとしていたものがあったことを、いまふいに思い出した。
「渡し忘れていたよ」
 封筒を取り出し、ルリに手渡した。
「陸奥に騙し取られた分のお金だよ」
 陸奥が何かを言いかけたが、睨みつけて黙らせた。
「ね、これでルリが陸奥と話す必要のあることは終わったでしょ。もう別れたんだしね」
 ルリが陸奥とのことで気にかけていたのはこれだよね。そりゃあ無理矢理とられたお金のことは気になるよね。
「こんな、こんな……」
 ルリは手を握りしめて、その中にあった封筒もひしゃげた。
「こんなもの、私、私は」
「もういいよね? お金以外にルリと陸奥の間で何があるの? 何もないでしょ? これで全部清算したんだから、もう陸奥と話す必要なんてないよね。何かあるっていうなら僕が全部なんとかする。だからルリはすぐにでも出て行って。そして陸奥の前に、二度と顔を出さないで」
 畳みかけるように言うと、ルリは唇をかみしめる。何が悔しいのか、僕にはわからない。
 ルリはくっと顔を上げた。そして乱暴にコートとバッグをつかみ、喫茶店の出口へと駆けていった。
 ……ルリが視界から見えなくなるということは、いつだってつらく締め付けられるように切ない。
 それでもルリがいてはできないこと、というのがある。
 先ほどから身体をこわばらせ、一言も口をきかない陸奥に目をやる。
 そして胸ぐらをつかんで、一気に床に引き倒した。
 隣にあった誰もいない机も一緒に倒れる。遠くの席から、悲鳴が上がる。
「何しやが」
「理由は自分でわかっているよな。こうして呼び出してまた貢がせようとしていたのか。その神経の太さはすごいね」
 身体を起こそうとしていた陸奥の手の上に足を乗せた。踏みつける。
「やめろ、やめろ! 手はやめろ!」
 ギターが、俺の手が、とかわめいている。うるさい。
「じゃあ、喉にしようか?」
 陸奥は片方の手で喉を押さえた。
「二度とルリに会うな。二度と話すな。もちろん二度と貢がせようとするんじゃない。手をあげるなんて論外だ」
 足に力を込めながらゆっくり告げると、悲鳴のような声を上げた。
「ああ、わかった、わかったから!」
 本気で言っているのか疑わしくて、一層力を込める。
「本当だ! もうお前らとのトラブルはうんざりだよ!」
「お客さん!」
 店員が僕を後ろから羽交い締めにして、止めに来た。陸奥は手をかばうようにしてうずくまっている。
「喧嘩はご遠慮ください!」
「悪かったね」
 僕は背中を押されて店を追い出された。
 もう用はなかった。

戻る / 目次 / 進む

stone rio mobile

HTML Dwarf mobile