奪ふ男
ジョーカー 2−7 (4/4)
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僕は心配になって、そのバイト先に付いていこうか、見守っていようか、と言った。心配していただけでなく、本当にちゃんと別れるのか確かめたかった気持ちもあった。
でもルリは、いいよ大丈夫、と軽く笑った。
「それぐらいの気持ちでいるってことだよ。陸奥先輩は殴るような人じゃない。だって、あんなに優しくて共感できる歌詞を書ける人だもの」
それからルリは、自身の内面をこう明かした。
「陸奥先輩のことは、ミュージシャンとしては一番好き。これからも、陸奥先輩が許してくれるならファンとして歌を聴きたいくらい。……けど、恋愛感情は今もこれからも、持てない」
これは僕を複雑な気持ちにさせた。
恋愛感情を持てないというのはいい。でもミュージシャンとして好きと言われると、あんな素人の歌を、と吐き捨てたくなる。
いっそルリはあいつを全ての面で嫌いになればいいのに。歌は好きとか、そんな中途半端なこと思うなよ。
……中途半端だからこそ、多分、ルリの真実の気持ちなんだろう。
だから、恋愛感情はこれからも持たない、ということも真実なのだろう。
あいつと別れ、僕と一緒にいても、ルリはあいつの曲を聴いているのだろうか。そんなのは嫌だ。僕以外のものを見てほしくない、僕以外の声を聞いてほしくない――そういう想像を胸を掻きむしるような気持ちでしつつ、だけどまだ先の話だと無理やり心を落ち着かせた。
そのときになってから、ルリに言えばいい。最悪、CDを叩き割ればいい。
全ては、ルリがあいつと別れてからだ。
しかし。
これは後のことになるけれど……結局、ルリは自分の言葉通りに陸奥と自ら別れることはなかったのだった……。
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