奪ふ男

ジョーカー 2−8 (1/5)
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 二学期になってからできたルリの友人は、二人いる。頭の天辺で髪を一つにまとめたお団子頭と、眼鏡をかけたのと。
 僕は四月からルリに友達を作らせないように戦ってきたけれど、ひとまず休戦することにした。友人よりも、彼氏の方が大きな問題だ。
 友人排除計画を中止したことに、一つ利点があった。その友人から、僕の知らないルリの情報を聞き出せることだ。
 特にお団子頭の方からは、情報が得やすかった。どうも彼女は僕目当てでルリと友人になったような節がある。話すことも、情報を得ることも、簡単すぎるくらい簡単だった。
 僕が得た情報。それは、ルリと陸奥という奴の出会いの話だった。
 ルリはお団子頭の方には話していたらしい。その彼女からの又聞きによると、こういう出会いだったそうだ。
 
   *   *
 
 夏休みのことだったらしい。
 ルリが喫茶店でいつものようにウェイトレスとして働いていると、陸奥がやって来た。長く伸ばした茶髪で大きなギターケースを担いでいたことから、バンドでもやっているのだろうかと思いつつ、いつも通りの接客。
 陸奥はコーヒーを頼むと、イヤホンで音楽を聴きながら、紙とペンで歌詞を作るのに没頭し始めた。
 ルリはふと、この人どこかで見たことがあるような、と思い始めた。
 後になってわかれば当然。同じ学校の先輩後輩なのだから、学校内のどこかで顔を見てもおかしくない。
 だけどそのとき、ルリはわからない。どこで会っただろうか、と考えても考えても。
 陸奥がコーヒーを飲み干し、歌詞も一段落ついたのか、会計を済ませようとした。
 ルリはレジを打っておつりを渡した後、あまりにも気になっていたものだから、問いかけた。
『あの、どこかで会ったことありません?』
 陸奥は一瞬驚いたものの、すぐにルリを頭の天辺から足の先まで見回して、にやっと笑った。
『君のような大人しそうなコに逆ナンされたの初めてだよ。オッケー、付き合ってもいいよ。ここはバイトだよね? 終わるの何時?』
 今度はルリがびっくりしてしまった。誤解されたこともさることながら、その後のとんとん拍子に話を進めようとする彼の言動にも。
『あっ、いえっ、違うんです。そんなつもりじゃ……本当に、どこかで見たことがあるような気がして……』
 すみません、とルリは謝った。
『あれ違った? 残念だな、本気で付き合ってもいいと思ったんだけど』
 陸奥はルリの胸元にある名札を見る。
『谷岡、ね。下の名前は何て言うのさ』
『えっ、瑠璃子、ですけど……』
『瑠璃子ちゃんか。可愛くて良い名前だね。俺の名前は陸奥秀次。覚えてくれよ』
 何で、とルリが思ったところに、陸奥は続けた。
『マジで付き合いたいと思ったから。また来るよ。コーヒーも美味しいし、瑠璃子ちゃんのこと、気に入っちゃった。俺の周りにいなかったタイプでさ』
 陸奥は良い声で笑うと、喫茶店を出ていく。ルリは呆然と、長髪の流れる彼の背を見ていた。
 
   *   *
 
「それからー、陸奥先輩は頻繁に、バイト先に来るようになったんですって。それで毎回口説いてきてメルアドとか訊いてきて、困っていたって。でも、勧められて陸奥先輩のバンドの音楽聴くようになると、すごい共感して、尊敬し始めたそうですよ」
 お団子頭はそう付け加えた。
 誰でもいいから、軽く遊び相手にでも口説いたようにしか聞こえなかった。

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