奪ふ男

ジョーカー 2−5 (3/4)
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 また僕とルリの間に入ってくる奴は、誰だ。一度解決してそれで終わりじゃないのか。まだ、邪魔者になる奴が現れるのか。
 鈴山のときのような激しい憎悪がぶくぶくと生まれてくる。
 絶対に消してやる。
 榊がびびって身体を引いた。
「おい、すげえ怖い顔してるって」
 思考の淵に囚われていた僕は、緩慢な動きで榊に目を向ける。
 本当に、こいつじゃないよな?
 もしそうだとしたら、殺しても殺し足りない。ルリと会話をさせた甘い僕自身を後悔する。
「もしかしたら、谷岡さんの相手って榊なのー?」
 くすくすと笑いながら、西島が僕の思っていたことを問う。
「俺じゃありませんって」
「えー、あたしにとって、すごく残念。ほんと誰なのかな。……なんとか接触したいところだけど」
 最後の方はあまりに小声で、聞き取れなかった。西島は自身の唇を触りながら、何かを考えている。
「榊ィ、何か知らないの?」
「知りません。本人に訊けばいいでしょう」
「谷岡さんがあたしに教えるわけがないじゃん」
 僕にだって、教えるかどうか。
 鈴山の時だって、ルリは自分から教えてはくれなかった。僕が問わなければ、あのままずっと黙られていた可能性だってある。あのままずっと、鈴山と付き合って――不愉快な想像を僕は打ち消した。
「……そういえば、変な音楽聞いてたっけ」
 頭を掻く榊は、そうぽつりと漏らした。
「変な音楽……?」
「夏休みの部活の帰り、谷岡さんがイヤホンから変な音楽聴いてたんだよ。んで『何?』って訊いたら、すんごい勢いで薦められて、その曲の入ったCD貸してくれてさ」
 ほら、と言いながら榊はカバンからCDを出してきた。
「今日返そうかと思って持ってきたんだ」
 ……ルリとCDの貸し借りをするくらいに仲良くなっていたわけか。
 こいつ、僕にルリには近づかないとちゃんと言ったわりに、影でそういうふうにルリと会い、話をしていたのか。この分だとただ話をする以上に、ルリに友達を作る手伝いをしていたんじゃないか?
 僕は疑いを濃くしたまなざしで榊を見つつ、彼の手にあるCDを見る。
「何の曲?」
「よくわかんないロック。多分インディーズバンドのだと思う」
「へーえ」
 感心した西島が手を伸ばそうとするより早く、僕はCDを取り上げた。
「又借りになるけど、これ借りていいか?」
 
 

 金原家の居間は一階にあり、窓も大きく日の光を取り入れる構造となっている。
 夕食後のそこで、激しいギターやドラムの音が響く。オーディオ機器に入れた、学校で借りたCDからが音源だった。
 最後まで聞いたけれど、まったく聞き覚えがない。メジャーな曲でないことは確かだ。榊の言うように、インディーズバンドの曲なのだろう。あくまで音楽に詳しくない僕の感想だが、ちょっと微妙だ。もしこれが大々的に売り出されていたとしても、僕は買わないし聞こうと思わないだろう。
 リモコンで操作し、曲を繰り返させる。
 なぜ、ルリはこんな曲を聴いていて、なおかつ人に勧めたのだろう。
 好みと言っちゃえばそうだけど、そもそもルリがインディーズバンドの曲に興味を持つなんて、おそらく初めてだ。ルリは激しいロック系より、穏やかなバラード系を好んでいたし、好きなアーティストだってもちろんプロデビューしたメジャーなグループばかりを挙げていた。
 いや、考えるべきことはそれより。
 ルリに、他に好きな男がいる……。

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