奪ふ男

ジョーカー 2−5 (4/4)
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 鈴山が消えてそれで終わりじゃないのか。またなのか。
 一体誰だ。
 ルリの周囲にいる人物を思い浮かべるが、榊以外それらしき人間は思いつかなかった。だって、排除してきたのだ。
 他に可能性があるとすれば、バイト関係。
 いまだにルリはどこでバイトをしているのか明かしてくれないから、どんなバイトをしているのか知らない。そこで誰かと出会って……?
 ルリが誰かと笑いあっている図を思い浮かべた。途端、不快さが身を支配する。
 誰だ。誰だ、誰だ。ルリの隣にいるのは、僕の場所を取るのは。
 ふつふつと頭が沸騰しかけているとき、間延びした声で頭を冷やさせた存在があった。かけ続けていたCDからの、ボーカルの声だ。激しいロックなのに、どこか冗長なところがある。語尾にくせのあるボーカルの男の声。
 CDのケースには、「DANTE」というグループ名が書かれてある。その名前にも聞き覚えはなく、メジャーでないことは確かだ。
 ……まだ、わからない。
 確実な証拠も証言もなかった。ルリに他に好きな男だとかいうのも、榊と西島の予想にすぎないのだ。全部想像、妄想、という可能性だってある。
 そう思ってみても、一度ざわめいた胸は治まらない。
 一番疑うべき榊が、嘘をついているかもしれない。
 疑念が疑念を呼び、ソファに寝ころびながら考えているうちに、次第に僕に睡魔が襲ってきた。思考が分断される。
 音楽がリピートされ続け、僕の鼓膜に刻まれる。
 周囲から取り残されたような細やかな焦燥感、でも周りへ踏み込めない些細な躊躇を冒頭で語らっておいて、サビになったら、さあ動け、走れ、声を上げろ、と攻撃的な口調で煽る。
 覚えたくもないのに、ボーカルの語尾のくせが脳内に記憶される。息継ぎの直前が間延びしたように感じるのだ。
 リモコンに手を伸ばすのが億劫になるほど眠く、一晩中僕はこの曲を聴いていた。
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