奪ふ男

ジョーカー 2−4 (3/4)
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 僕は目の前でぐすぐすとうつむいて泣き続ける西島の肩に、やさしく手を置いた。
「西島さんは、僕を思ってくれてああ言ったんだね。よくわかったよ。責めてごめん」
「智明君……」
 涙をぬぐうようにしてから、西島は顔を上げた。
「もう勝手に推測して変なことは言わないでほしいけれど、昨日のことはいいよ。僕も責めすぎたね」
 優しさに溢れた笑みを佩く。
「水に流してくれるの? ありがとう、智明君!」
 西島は僕に抱きついてきた。
 こうして僕と西島が仲直りしたところで、周囲の人間は安堵したように教室に入っていった。ちょうどチャイムが鳴る。教師がやってきた。
 僕はやんわりと西島を身体から離し、それから教室に戻った。隣には先ほど僕より前に教室に入っていた榊が座っている。
 席につき、ようやく僕はため息をついた。
 ……女の涙とは面倒なものだと、よくわかっている。
 このまま責めたところでこじれにこじれ、結局脱力するような結果しか生まないとわかっていたから、適当に西島が望むであろう言葉を告げ、終わらせた。
 腹立たしいことは腹立たしいままだけど、泣いた女とそれを責める男では、客観的に男に分が悪い。人も多すぎた。
 たとえその女の涙が、嘘だったとしても。
 普通の男だったらころっと騙されるかもしれない。泣き落としなんて、僕は見慣れていた。それほど泣き真似がうまかったと称賛はできるが、感情はまったく動かなかった。
 それにしても――
 どうしてこう、うまく事が運ばないのだろう。大切に手のひらにすくい取ったものが、次第にこぼれていくような気持ちだった。
 
 
 それから、ルリは再び友達を作ろうと努力し始めた。
 けれど弱りに弱ったルリに残った勇気はごくわずかで、積極的に友達を作る行動に移すまでにはいたらなかった。話しかけたり輪の中に入ろうとする前で、躊躇してしまっているのだ。
 無駄な努力。
 そう冷ややかに見つめながら、ほっとしている。
 たとえそうできたとしても、僕が排除すればいい話だ。さっさと全部諦めてしまえばいいのに。
 ルリの実らぬ努力を見るだけの僕に、やっぱりルリは変わらずすがっていた現状。結局の所、一学期の間にルリの周囲に変化は訪れなかった。


 
 その年の夏休み。かつてないほど、つまらない夏休みだった。
 ルリは水泳部の部活とバイトで忙しく、ほとんど逢えず、遊べない。
 バイトに採用された後も、ルリはどこがバイト先かを教えてくれなかったから、顔を出すこともできない。
 ルリと僕は携帯を買った。ルリはバイト代が入ったから。僕はルリと繋がるため。でも慣れていないためか、ルリからの返事はマメではない。その繋がりは細い。
 そしてルリと話したりするために買った携帯には、他の奴らからのメールや電話がひっきりなしだった。適当にメルアドとかを教えるんじゃなかったと後悔しても後の祭り。
 夏休み中、あっちに行こう、こっちに行こうと誘われる。なぜだか強制的に参加させられることも多く、そしてそこにはルリがいないこともあって、憂鬱さを駆り立てた。
 盆前のプールもそうだった。郊外のプールに行くとかいう計画が立てられ、知らず知らずのうちに、僕がそのメンバーの中に含まれていた。断わろうとしても断り切れず、行くことになった。
 現地集合のため、一人でバスで行く。駅前のバス停には、まだバスが来ていない。

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