奪ふ男

ジョーカー 2−1 (2/4)
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「僕は四組の金原。忘れたならいつでも借りに来てよ」
 ルリじゃなくね。にっこりと満面の笑みを向けた。
 こうやっていつでも見ていないと、ルリに近づこうとする奴がいるから困る。おちおちしていられない。ルリのクラスの中にもルリと親しくしようとする奴はいて、目が離せない。
 ルリ自身はそんな魔の手なんか気づいていないようで、近づく人間は誰でも仲良くしようとする。むしろルリ自身が近づこうとさえする。だから僕がなんとかしなくちゃいけないんだ。
 ルリの周囲から、他の人間を排除しなくちゃ。
 
 
 僕の地道な努力は実を結びつつあった。
 ルリに近づこうとする人々はルリよりも僕を選んでゆく。
 次第にルリは僕だけのルリになってゆく。
 日に日に嬉しさがこみ上げる僕とは対照的に、なぜかルリは沈んでいった。
 
 
 その日もそうだった。ルリは朝も昼もうつむきがちで、僕との会話にもあまり乗ってこない様子だった。
 下校途中、ルリは公園に僕を誘った。ちょうど通学路の横には、僕たちが小さい頃によく遊んだ公園がある。ルリが部活動を終えてからの時間なので、子どもたちはみな、各々に帰り始めていた。匂い立つ紫の藤棚の下をくぐりぬけるようにして、ブランコの方へと進む。
 空いたブランコに、ルリは座る。
「なんか、寂しいんだ」
 ぽつりと言うと、ルリはブランコを漕ぎ始めた。ブランコは自然に、前に後ろにと動いていく。それに連動するように、ルリは止めどない言葉を口からこぼれさせる。
「クラスの人とか、同じ水泳部の人とかと、……うまく仲良くなれないんだ……。どうしてなんだろう……」
 さも人生の重大事のように深刻そうにルリは言っていた。
「それが、どうしたの?」
 そう問いかけた僕の気持ちはそのままだ。僕の思ったとおりに事は運んでいる。それの何が悪いの、と。悪い所なんてない。
 けれど、そういう返事にルリは驚いているようだった。
「どうした、って……だから、新しい友達ができなくて……悩んでいるんだよ」
「友達ができないからっていいじゃないか。友達ってそんなに必要?」
「え、必要に決まってるじゃない。智明はさ、何もしなくても勝手に人が集まってくるからいいよ。でも私は違うよ。一人でいたら、ずっと一人になっちゃう。そんなのやだ。誰かと打ち解けたい。みんなの中にいたって、一人でいるような気分なんだよ。友達がいないと、さびしいよ……さみしいよ……」
 こうやって、心情を吐露してくれるのは嬉しい。それって、僕に心を開いているってことだから。
 でもやっぱり理解しがたい。わかるのは、ルリが寂しがり屋だってことだ。そういえば、いつも猫の大きなぬいぐるみを抱き枕代わりにして寝てるって言ってた。そういうところも、寂しがり屋の証明になるのかもしれない。
 ルリはいつの間にかブランコを漕ぐのをやめていた。
 僕は彼女の後ろに回って、鎖ごとルリを抱きしめた。息を呑む音が聞こえる。
「ねえルリ、寂しいなんて言わないでよ。僕がいるじゃないか」
 耳元で、熱くささやく。
 僕が。僕だけが。
「他の誰もいなくっても、僕はずっとルリの側にいるよ。絶対に、何があっても」
「智明……」
 こわばっていた声がやわらぎ、喜びをまとっていた。
「それとも今の僕だけじゃ足りない? どうしたらルリの寂しさが消えるかな……」

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