奪ふ男

ジョーカー 2−1 (1/4)
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 高校に合格した当初は感謝を捧げた神様だけど、クラス分けを知ると、恨めしく思った神様。
 高校一年の僕とルリのクラスは、またも分かれてしまった。ルリは三組。僕は四組。教室が隣り合っていたことが唯一の救いだ。
「智明くーん、また一緒だね〜、これって運命かも」
 にも関わらず、西島はまたも同じクラス。笑みで返しておいたが、激しくどうでもいい。西島も同じ高校を合格したと聞いたときですら、それほどの感慨はなかった。西島自身は僕と一緒の高校に通うことを知り、浮かれまくっていたけど。
 どうでもいい奴が一緒で、一番大事なルリと離れるなんて、憂鬱だ。
 
 桜が咲く頃、高校生活が始まったわけだが、中学時代と変わったことは少なかった。
 制服は学ランからブレザーに替わった。
 人間関係については、クラスメイトがほとんど知らない人間ばかりにもなったが、僕に群がってくることに変わりない。メンツが入れ替わった程度のことで、特に大きな変化はなかった。
 中学時代と特に変わることはない。僕は相変わらず帰宅部で、ルリは水泳部。
 ルリは新たな人間関係を築こうとしていた。クラスメイトたちと、部員たちと。
 これが一番大きな変化だったのかもしれない。
 ルリは大人しめな性格ながら、努力して、クラスメイトや部員たちと仲良くしようとしていた。
 僕はそれを見て、焦った。
 中学一年のときも、入学した当初は知らない人間とうまくやるため、ルリは積極的に他の人と話したりするものだった。普段は控えめだけど、こういうときだけ、ルリは積極的になる。中学一年のときはそれが気にならなかった。でも今は違う。焦りが大きかった。
 ルリに話しかける男、女。そいつらがみんな、ルリに気があるように思えてならない。
 以前は、ルリは僕のもので、他の人間なんて関係ない、って思ってた。他の人とルリが話していて、むっとして腹立たしくなることはあっても、ルリがとられる、なんてことまでは危惧していなかった。
 でも、鈴山という前例がある。忌まわしい前例ができてしまった。
 水泳部に入部したルリが泳ぐのをプール脇で見ていたとき、男子水泳部の部員らしき男二人が通りかかり、話しているのを聞いてしまった。
「新しく入部した一年の谷岡、いいよな」
「ああ。控えめで女の子らしいし」
 よく考えればわかることだった。僕のルリが、他の人間にもよく思われるに違いない、って。
 そう思えると、ルリのクラスメイトも水泳部の部員達も、誰も彼もが第二の鈴山予備軍に見えてならなかった。
 だから僕は、彼らを排除することにした。
 
 
「智明、また来たの」
 ルリが呆れたように言い、教科書やノートを取り出していた。ルリのいる、隣の三組だ。
「来ちゃまずい?」
「用もないのに休憩時間に毎回来て。入学したてなんだから、クラスに溶けこもうとした方がいいのに」
「そんな必要ないよ」
 何もしなくたって蟻のように人は寄ってくるのだから。そもそも周囲に合わせるということは得意じゃないし、する必要も感じない。
「なー谷岡ー、古典の辞書持ってない? 貸してほしいんだけど」
 窓から顔を出した男子が、ルリに呼びかけた。見覚えがある。水泳部の男子で、同じ一年。
「あ、古典の辞書?」
 ルリがロッカーに取りに行こうとする前に、僕はその男子に近寄り、
「古典の辞書だったら僕も持ってるよ。貸してあげる」
 艶を含んだ声で言う。
「え、あ、あんた、誰」

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