翼なき竜
29.未来の夢(4) (5/5)
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眩しいようなその理由に、真意を疑いたくなるくらいだった。後のことになるけれど、その信念は真実だったらしい。珍しいほどに若く、理想主義的な政治家だった。
彼の立ち上がる音がし、頭を下げる間があった。
「ありがとうございます。私も、陛下と直接話をさせていただいて、嬉しかったです」
……少しくらいなら、顔を見てもいいかもしれないと思った。
このままろくに顔を合わせないと、また嫌っているだとかややこしいことになる気がする。礼儀を考えても、このまま窓を見続けるわけにはいかないだろう。
レイラは肘掛けに力を入れ、立ち上がる。
そして勇気を振り絞り、彼へ顔を向けた。
やはり、衝撃がある。過去が逆流する。
違うところ、違うところを探すんだ。
イーサーの髪は透き通る青銀の色で、さらりと流れている。瞳は蒼で、きれいな目だ。背はとても高い。普通に生活していても頭をぶつけたりしているのだろうな。
そして何より、中身が違う。言葉遣いは礼儀正しくへりくだるものの、大切なことは曲げない。どこか眩しい。
光の中で生きてきたのだろうと、何となくわかる。苦労がなかったとは言わないが、きれい事を許容される場所で生きてきているはずだ。それとも、そのきれい事を自身で押し通してきたのだろうか。妙な頑固さを考えると、それもあり得る。
「あ、あの陛下……」
イーサーはどこかもじもじとしてうつむいている。
「そそそ、そんなに見つめられると……」
「あ、ああ。すまない」
いけない。逆にこれでは無礼だ。
レイラは椅子に手をかけ、それを窓際からテーブル前の元の場所に戻した。
「今日はありがとう。……それと、これまですまなかった。全部私の誤解のせいだったというのに、苦労をかけた。何とかしておくから、これからもここにいてほしい」
「いえ、陛下のせいでは。……もちろん、ここにいます」
そうか、と言って、レイラはようやく彼に、笑いかけられた。ようやく意識の中で、イーサーとグレゴワールが分離してきた。
イーサーは顔を赤くした。
「……どうした? 熱でもあるのか? 医者を呼ぼうか?」
レイラが心配して女官に声をかけようとすると、イーサーは顔をぶんぶんと横に振る。
「いやあの、へ、陛下がお美しい顔で笑いかけてくださったから……」
レイラはぽかんとした。
ああ、お世辞か。
「世辞なんていい。そういう媚びは嫌いなんだ」
レイラは苦笑する。
「いいえ! 媚びとかお世辞とかではなく、本気です! 本当に、美しい人だと、初めて見たときから、思ってました」
イーサーの蒼い眼は澄んでいた。
レイラは心がざわついて、思わず信じそうになる。浮かれてしまうような、胸がうずくような。こんな気持ちになったのは、初めてだった。
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