翼なき竜

26.未来の夢(1) (3/4)
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「はい。……騎士団へ、フォートリエ騎士団へ入団しようかと。あの騎士団は完全な実力主義の場所。国王陛下の娘たるもの、力も必要でしょう。私はそこで、強くなってきます」
 その場で思いついたことであったが、エミリアンは興味深そうに娘を見やった。
「なるほど。あちらは荒っぽい。世間を知るのに良いかもしれぬな。――レイラ、王族たるもの、二言はないな? 強さを得ずして帰ろうものなら……」
 その後に続くであろう言葉に戦慄を覚えながら、レイラはうなずくしかなかった。
 女王になるため、父の信任を得ることは絶対不可欠である。
「果たして、後宮育ちの方が耐えられるでしょうかなあ」
 ギョームが意地の悪い顔でレイラを下瞰する。レイラは口の端を上げ、笑いかけるようにして、彼の視線に立ち向かった。



「すばらしいです、王女殿下!」
「お強い!」
 レイラが相手を倒したと同時に、拍手と讃美の嵐が巻き起こった。
 フォートリエ騎士団は、国内で最強の騎士団だ。来る前はかなりの覚悟を決めて訓練も積んできたのだが、実際試合をして、拍子抜けした。
 誰でも簡単に勝ててしまう。
 レイラは剣を持ち替えて、自身の右頬に触れる。
 『泰平を築く覇者』というのは、竜の血を半分受け継いでいる。その影響か、他の人間より少し強くできているのだと、ギャンダルディスに聞いた。
 きりきりと胃に痛みを感じるほどの圧迫感をもってここに来たが、強くなって帰る、というのは簡単に達成できそうだ。
 練習用の剣をしまおうとしたら、人混みの中から焦げ茶色の髪の男が現れた。周囲はその男と距離を開ける。
 にやにやしたその男は、レイラを真正面から見て、挑戦状をたたきつけた。
「お強い王女殿下、わたしと一試合してもらってもよろしいですかね?」
 何となくその笑い方が気に食わなかった。まるで見下されているようだ。
 周囲の人間も、「やめろ、ブッフェン」とその男を止めている。その男がブッフェンという名だと、そのとき知った。
「お強いと言われていたではありませんか。わたしとは戦えない?」
「……わかった」
 練習場の丘で、レイラとブッフェンは戦うことになった。
 フォートリエ騎士団が鍛錬の場に使う丘は、由緒正しき教会がかつて建てられていたという神聖な場所だ。
 レイラは背筋をぴんと伸ばし、相手をにらみ上げる。
 そして先手必勝とばかりにブッフェンに立ち向かった。
 上から剣を振り下ろすが、簡単に剣で受け止められた。再び攻撃を仕掛けようとする前に、ブッフェンは受け止めた剣を振り上げ、レイラの剣を浮かせる。
 その隙にブッフェンはレイラの肩口に光速で振り下ろした。
「……っっ!!」
 あまりの痛さに、呼吸が止まる。膝が地面について、しびれて剣を取り落とす。打たれた肩は、まるで骨でも折れているかのようだ。
「弱えなあ」
 その一言を、笑いながらブッフェンは口にした。
 他の騎士たちはレイラの身を案じて、すぐに近寄ってくる。お怪我は、と身体を心配する人たちと、ブッフェンに食ってかかった二派に分かれる。
「ブッフェン! 王女殿下になんてことを!」
 ぎろりとブッフェンはにらんだ。
「フォートリエ騎士団の誇りも失ったのか、てめえらは。地位や生まれは関係ねえ。戦いの実力だけがこの騎士団で意味があるんじゃなかったのか。おべんちゃら使って負けやがって」

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