翼なき竜

26.未来の夢(1) (4/4)
戻る / 目次 / 進む
 痛みに顔をしかめて座りこむレイラを、ブッフェンは見下す。つまらないものを見るような顔をされ、レイラは『見下される』ことの不快さを強く味わった。
「弱え奴は地面に這いつくばるのが当然だ。弱え奴が、強い強いとおだてられて勘違いして浮かれるのを見るほど、気分悪いことはねえな」
 吐き捨て、ブッフェンは立ち去る。その後を数人の騎士が追ったが、レイラは顔を上げ続けられず、うつむいたままだった。
 恥ずかしさと悔しさ、そして人前で辱められた怒りで、目の前が真っ赤になる。
 頬のあざが熱くなる。他の騎士に慰められれば慰められるほど、みじめになった。
 悔しい。なんだあいつは。何様だ、強いからって――!
 頬はますます熱さを増す。しかしとある瞬間、ふっと頬は急激に冷えた。同時に頭も冷えた。
 『泰平を築く覇者』として生まれてから、よくあることだった。
 激しい怒りや憎しみを抱き、攻撃的な感情におちいることは多い。しかし、度が過ぎるほどに怒りの念が強くなると、何かの力によって、それが静まる。
 ――それが竜の翼の力だよ。
 ギャンダルディスは、そう説明していた。『泰平を築く覇者』は竜の血が濃いせいか、攻撃的な感情を抱きやすい。臨界点を越える間際、翼の力で押さえ込み、冷静にさせるのだ。それによって歴史上、『泰平を築く覇者』は度が過ぎて感情的にはならず、冷静沈着な王が多かったという。
 そして今回も同様に、レイラは冷静になった。
 ブッフェンという男が強いことも、自分が地位によっておだてられただけの弱い存在であることも理解する。ブッフェンという男は正しいことを言っていた。
 しかし、である。
 いけ好かないのには変わりない。
 あいつより強くなってやる。
 レイラは怒りや憎しみではなく、闘志を燃やす。あいつを、完膚無きまでに打ち倒してやる。
 後にレイラが、今では取り戻すことができないと、懐かしく哀しく思うほどにきらきらと輝いた、死も闇の影も形もない、宝石のような時代のことだった。
戻る / 目次 / 進む

stone rio mobile

HTML Dwarf mobile