翼なき竜

26.未来の夢(1) (2/4)
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「公平?」
 ふと父の言葉を思い出した。王は公平でなければいけない、ということ。
『そう。君は人間の子として生まれたけれど、半分は竜なんだ。僕とこうして話ができたりロルの粉なしで近づけたりできるのは、その半分の血のおかげってこと、わかるでしょう?』
「……うん」
 レイラがそういったことができると言っても、本気で信じてくれる人は少ない。
 しかし実際にレイラは普通の人にはできないことができる。自分が竜でもあるということはすんなりレイラの頭に入っていた。
『君は人間でもあり、竜でもある。だから、人間のためだけを考えてはいけない。竜のことも考えなくちゃいけないんだ』
「なんだ、そんなことか」
 レイラは軽く笑った。
 ギャンダルディスと話すことで、レイラは竜とも親しくしていた。
 たまに竜をただの家畜だとか武器にすぎないと見下す人がいるが、レイラはそんなことは考えない。
 竜というものに親しみを覚えながら、その知識は尊いものだということも理解している。確かにロルの粉がなければ人間を自動的に襲ってしまう本能を持つが、それは竜自身にはどうしようもないことで、本来竜というものは平和を愛し、同族間での争いを決して起こさない。
 人間にだって長所があり、短所がある。
 レイラは人間より竜を軽んじたりはすることはない。同じ生き物なのだと承知している。
 公平でいろ、とはそういうことなのだろう、とレイラは理解した。父の言葉も思い出す。王である条件に、公平ということがあるなら、それを守ろう。
 ギャンダルディスは不安げなまなざしを向ける。
『公平であるというのは難しいんだよ。思った以上にね』
「大丈夫。私は人間も竜も好きだ」
 もし人間が倒れていたなら、当然助ける。もし竜が倒れていても、助ける。
 他の人間なら竜を助けることはしないだろうけれど、レイラは竜のことをよく知り、親しみを持っているから。
『……そう。どんなときも忘れないで。君はいつでも、人間の一員であるけれど竜の一員でもあるということを』
 ギャンダルディスはそう言い含めた。


 レイラが女王となる上で、最も障害となるのが叔父であるギョームということは、子どものときからよくわかっていた。
 ギョームはエミリアンと兄弟でありながら、その国王と似たところは少なかった。
 ぎょろっとした丸い目はよく動き、背骨はせむしのように曲がっている。
「兄上、レイラを次期国王とするのはどうかと思いますね」
 後宮でレイラと話しているエミリアンに向かい、ギョームは忠言した。
「なぜだ」
「レイラは後宮を出たことがないでしょう。そういう人間がこの広いブレンハールを治めるには、見識が狭すぎます。それに力もない」
 ギョームはレイラを見下ろした。それは文字通りでもあり、軽んじているような目でもあった。
 確かにレイラは後宮で育ち、外のことなんてほとんど知らない。世間知らずだと言われても仕方がない。
 しかし、王座をめぐる争いの中、まだ若いから仕方ない、なんて言い訳が通じる世界でもない。
「ふむ、確かに」
 威厳あふれる声で、エミリアンがうなずく。
 レイラは焦った。現国王である父の肯定は、とても大きい意味があった。
「ち、父上」
 レイラは思わず呼んだ。そして言っていた。
「ギョーム叔父上のおっしゃることはもっともだと思います。私も以前から考えていました。世間を知るため、外に出ようかと」
「外へ出る?」

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