翼なき竜

21.女王の子(4) (3/4)
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 ……だけど、彼女にとってはそうではなかった。誰かが助けに来てくれば『どうにかなった』ことだった。
「どうしようもなかった結果と、言ったことは、悪かったと思います。しかし……今更、どうにかなる話ではないでしょう……」
 過去の彼女を、助けられるものなら助けたかった。
 できるものなら。
 とりとめもない話をしていると自覚している。
 自分の中で整理がつかなくて、ぐちゃぐちゃだった。
 その思考を打ち破る声があった。
「そりゃあ、あんたにだけは言われたくねえでしょうよ」
 鋭い声音は、ブッフェンのものだ。
 なぜ、と思い、彼に視線を向ける。
 しかしブッフェンは隣にいるデュ=コロワを睨み付けていた。
「何の話かと思えば、七年前の監禁事件のことだな? 今更何があったか知らねえが、おいアンリ、肝心なことを宰相に話さなかったな?」
 アンリはデュ=コロワの名である。
 咎められ、居たたまれないようにデュ=コロワは視線をそらしている。
 宰相も彼へと視線を向けるが、デュ=コロワは宰相にも目を向けなかった。
 肝心なこと……?
「宰相閣下、あんたはな……」
 ブッフェンが言いかけたところで、
「ブッフェン!」
 とデュ=コロワが一喝する。
「宰相に告げることは、陛下から固く禁じられただろう!」
「命令されたから黙ってたわけじゃねえよ? あの女王が我慢ができると言うから、黙ってたんだ。だが今、我慢できなかったようじゃねえか」
「しかし……宰相自身には関係のないことだぞ。彼には何の責任もない」
「責任? 無知は十分、罪だぜ。『どうしようもなかった』なんてこいつの口から聞いたレイラは、そりゃ我慢できなかっただろうよ。この調子でべらべら説教でもしたら、宰相は女王に殺されかねないぜ」
「一体何の話です!」
 宰相は叫んで、二人の会話を遮った。
 やはりデュ=コロワは顔を見合わせない。
 ブッフェンは悲しみを帯びたまなざしを向け、告げた。
 数年間女王が隠し続けたことを。
「宰相閣下、あんたの顔はな、グレゴワールに似てるんだ。女王を監禁したガロワの領主――あの女王が憎悪している男にな」

 その衝撃を、何と言えばいいだろうか。
 嵐が身に迫り、内側に潜り込んで突き破るように暴れたような。そして全てを一瞬のうちにぼろぼろに壊していったような。


 その後、どのような会話があって二人と別れたのか、どのようにして王城を出て自分の館に帰ったのか、よく覚えていない。
 焦りながら館に帰ってきたとき、宰相はただ、父に会うことを求めていた。
「父さん! 父さんいますか!」
 執事の爺は「こんな夜中に」と言ってたしなめたが、それどころではなかった。朝まで待っていられる話ではなかった。
 父を起こし、勢いよく尋ねた。
「父さん、私は、ガロワの領主だったグレゴワールに似ているのですか?」
 父は目をこすりながら、「はあ?」と気が抜けたような声を出した。
「ガロワ? なんだ。まさか今更、親族関係をあらいなおしているのか?」
「とにかく答えてください」
「そうは言っても、儂は会ったことがないからわからんぞ。親戚づきあいはまったくなかったからな。顔? なんの話だ?」
「なら、当時ガロワ家と付き合いのあった人は知っていますか?」
 サラフは首をひねる。

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