翼なき竜

19.女王の子(2) (3/5)
戻る / 目次 / 進む
「……当時王であらせられたエミリアン様に至急知らせると、事件をを修正するという話になった」
「修正……?」
「王族たるものが、臣下たる貴族に監禁されたというのは外聞が悪い。監禁されたのではなく関所が通れなかった、という事件に塗り替えられた。元々フォートリエ騎士団は忠誠心が厚く、彼女にとっても元仲間。詳しい事件のあらましを知る者は少ないこともあって、国王命令が下れば、秘密は守れた。
 殿下は城では見なかった、関所付近にいたところを発見した、ということにされた。そうなると、私が手紙から暗号を解読して、となるのも矛盾点になる。だから手紙はガロワ家が偽造した、ということにされ、フォートリエ騎士団がガロワ城に攻め入ったのも、王の命令ということになった」
 そうして、今みなが知る事件となったわけか。
 事件を隠すのは、大変だったと思う。これこそ、国王命令がなければできないことだろう。
 そうして事件は終わったわけか。
 デュ=コロワの顔は、まだ暗い。
「私は、救出後の殿下に訊いた。監禁中、ガロワの領主・グレゴワールに何かされなかったか、と」
 宰相の身体に、びりっと何かが走った。
「殿下は答えた。『何もされていない。グレゴワールは監禁したとはいえ貴族で、紳士らしく、王族である私に無礼なことはしなかった』と」
 宰相はほっと息を吐く。止まりかけた心臓が動き始めたような、そんな感じだ。
「なおも私が問い詰めようとすると、殿下は笑って言った。『もしお前が想像するような下劣なことをされていたとしたら、自殺でもしてた』と。それで私は納得し、話は終わりだ。おそらくエミリアン様は、そのような下劣な想像を誰にも抱かせたくなくて、事件を改ざんしたのだろう」
 さらに安心を深める。宰相は笑うことさえできた。
 もう事件は過去のこと。
 女王はこの事件について語らない。と言うよりも、七年前に起こったことほとんど――王位継承戦争や、即位など――について、何も語らない。
 人生にはいろいろある。
 今は彼女は女王で、平和に過ごしている。それで十分ではないか。
 なのに、デュ=コロワの暗い表情。不吉であった。
「だが私は思う。そのとき本当は何かがあったのではないか。一年監禁されていた。一年だ。十月十日に足りる。……子どもが生まれていても、おかしくないだろう」
「デュ=コロワ様! それはひどい侮辱です!」
 思わず宰相は叫ぶ。
 何てことを言うのだろう。
 この人は、どれだけ女王を侮辱して貶めているか、わかっているのだろうか。
 エミリアンの命令は正しかった。事件の真実を明らかにし、このような勘繰りをされたのでは、女王はたまったものではなかっただろう。
「あなたのその発言は、不敬罪に相当しますよ! だいたい、あなたは陛下から話を聞いて、何もなかったと納得したのでしょう。女王の子だと騙る子どもが現れたくらいで、納得を揺らがせないでください!」
 デュ=コロワはむっとした表情を作る。
「他に理由がないわけではない。以前から疑っていたのだ」
「何故です」
「それは……」
 と言いかけて、デュ=コロワは口をもごもごとさせ、宰相から視線を逸らし、何も言わなくなった。
 宰相は強く言って、デュ=コロワを追い詰める。
「他に理由はないのでしょう? だったらこの話は終わりです」
「待て。……女王の子だと公言する子どもはレミーという名の男の子で、六歳だという……ちょうど年齢が合う」

戻る / 目次 / 進む

stone rio mobile

HTML Dwarf mobile