翼なき竜

17.竜族の秘(2) (4/5)
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「……随分と太っ腹ですね、陛下。おおっぴらにしたくない話のはずでしょう。私を仮にでも愛人としておけば済む話を、わざわざこんな貴重な情報を出すなんて」
 黙りこくる女王に、オレリアンは一歩踏み込む。
「宰相殿を愛してるから?」
「ああ愛してるよ」
 即座に返した女王は、言ってから照れて、そっぽを向く。オレリアンは楽しそうに笑った。
 挨拶を交わす。彼は扉を開けて出て行った。

 女王は一息ついて、もう一度椅子に座る。
 ベッドの奥にかかっている重いカーテンが、シャッと開かれた。
 そこから現れたのは、女官のマガリと宰相。
 マガリは胸をなで下ろして、女王の側に駆け寄った。
「ああ、陛下、無事でようございました! 襲われたらになったらどうしようかと……!」
 女王は彼女の背を撫でる。
「大丈夫だと言っただろう? 彼はドウルリアの使者だ。私の嫌がることをするわけがないじゃないか」
「ですがですが」
「もしそうだったとしても、マガリや宰相はそこから出て止めてくれただろう? それに、私にはこれがある」
 と、女王は自らの腰にある大剣を持ち上げた。
「まあ、これは最後の手段。ドウルリアの使者に怪我を負わせただけでも問題になる」
 自分の身を案じるより相手の身を案じる彼女は気丈で、平気そうだった。
 それでも女王の古参の女官であるマガリは心配そうに彼女を見上げていた。
 一方、宰相はぼーっと隠れていた場所で立っていた。
 先ほどの会話をずっと聞いていたのだけれど、宰相の頭に占められているのは一言。『ああ愛してるよ』
 ――陛下が、陛下が、愛してる、って。
 羽が生えて、ぷわぷわと身体が浮き上がってきそうである。
「宰相、どうしたんだ?」
 女王がいぶかしげに呼びかける。
「あ、え、あっ、はい、何でしょうっ」
 慌ててそこから動き出した。
「今晩は、夜遅くまで王城に留めてすまなかった。泊まる部屋を用意させるから」
 マガリはその準備のため、部屋を出て行った。
「竜族との契約についてドウルリアへ漏らして、よかったのですか?」
 気分をしゃっきりさせるため、固い話題を出した。
「逆上して他国同士で同盟を結び、攻められる可能性もあります」
「ドウルリア国王は、そこまで馬鹿ではないさ」
「今でなくても、いずれ」
 この契約を話すことは、牽制するという長所もあるが、短所が大きすぎる。情報はいずれ回る。攻め入られる口実になる。
 女王は座り直す。
「……今までの歴史上、我が国が他国に傍若無人な振る舞いをしたことは、数限りない。竜の力を使ってな。いずればれたよ、これは。私は、そろそろ先祖の尻ぬぐいをするべき時ではないか、と思ってる」
「尻ぬぐい、ですか」
 果たして、竜族との契約の秘密をばらすだけで、他国は納得するだろうか。理不尽さを感じつつ、我が国の力を噛みしめて、口先だけの納得を口にするだけではなかろうか……オレリアンのように。
 かといって、アルマン王の子孫が途絶えて契約終了できるならともかく、子孫は数百人。契約は永久的だ。
 結局、国力に物を言わせて、他国に納得させるしかないわけか。
 他国に糾弾されるより、自分からばらす分だけ、マシという程度だろうか。
「まあまあ、もういいじゃないか、竜の話は。部屋の準備ができるまで、飲もう」
 女王は一転あかるく言うと、宰相の背を叩いた。

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