翼なき竜
16.竜族の秘(1) (4/5)
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「……すまないが……」
「ドウルリアから持参しました、珍しきものもご用意させていただいております。ぜひ」
オレリアンは唇を落とした彼女の手を持ち続けている。女王は再び、「すまないが」と言おうとしたが、オレリアンの後ろから、老臣たちが顔を出した。
「それはよろしいことですな! さあさ陛下! ぜひ二人で歓談を!」
「そうじゃそうじゃ!」
女王は彼らの圧迫に、「わかりました」とうなずいた。
オレリアンは優雅に女王の手を引き、老臣たちの間を通って、部屋を出る。
「そんな、ちょっ」
宰相が言いかけたら、ぐるりと老臣たち全員が宰相の方に向き直る。
「宰相。女王陛下が愛人を作ってもいいんじゃろ? さっき扉の向こうから聞いたぞ」
「なっ、それは、私がそう決めたら陛下はどうするか、と訊くつもりで……!」
「陛下はいいと言ったじゃろうが。な、ら、ば、おぬしが二人を邪魔する権利はないよのう? 陛下自身もいいと言っておるのだから、なあ?」
「……!」
ふぇふぇふぇ、と老臣たちは互いに顔を見合わせ、笑い合った。
宰相は図書室にいた。ここはいつも静かである。
本の匂いが満ちあふれている。
長椅子に座り、小さな丸いテーブルに向かい、仕事をしている。広い四角いテーブルもあるが、備えられた椅子があまり好きではない。こういうのは好みの問題だろう。
普段の仕事は、もちろん執務室でやる。
しかし、今、宰相は気分を変えたかった。
執務室でしていると、能率が悪くなっていた。理由は、女王とオレリアンのことを想像するためである。
その想像はどんどん悪い方向へ向かうので、宰相は気分を変えるために、図書室に来ている。
報告書に目を通しながら、サインを書き入れる。
サインを書き入れる欄が別にあって、それは女王のための場所だ。
「こんなところにいたのか」
大剣の音をさせ、女王が近づいてきた。
宰相は立ち上がる。
いつの間に、図書室にいたのだろう。
いや、それよりも。
「……オレリアン様は?」
女王は一人である。楽しく歓談中であったのではなかったか?
「適当に相手をして、抜け出してきた。なぜだか部屋の外で臣下達が覗き見をしていたようだから、そいつらに歓談の相手を変わってもらった」
覗き見をしていた臣下とは、あの老臣たちだろう。
「彼らが……簡単に相手を変わったんですか?」
オレリアンと女王の仲を取り持とうとしていたようなのに、女王を抜け出させたのか?
女王は苦笑する。
「ちょっと無理やりに出てきたんだよ。オレリアン殿には悪いことをしたが」
無理やり。多分それは、全然『ちょっと』ではないのだろうなあ、と宰相は確信している。
女王は宰相の隣に座った。
処理し終わった書類を見る。女王のところへ回されるものもいくつかある。
女王はそれを取り、ペンを求めた。そして読み終わると、宰相のサインの上に自分のサインを書き記す。
どうやら隣で仕事をするつもりらしい。
ここ最近の女王は、休みなく働いている。……彼女の父親の、エミリアンが死んでからだ。
何度か休養も必要だと言ったのだが、彼女は聞き入れない。迷いなく女王としての仕事に集中している。
隣で仕事をする彼女は、ときどき疲れを払うように、首を振る。
しばらくしてから、重みがかかってきた。
女王が目を閉じ、寄りかかっていたのだ。
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