翼なき竜

15.英雄の場(3) (6/6)
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『とんでもございません。我が国ドウルリアが、どうしてブレンハール国の敵に回ることがありましょうか。ほらこの通り。今年は去年の二倍の貢ぎ物を持ってきております。我が国が従順なる小国であると、おわかりいただけたでしょうか』
 と、ご機嫌伺いをしなければならないのだ。
 ――まあ、実際、ラビドワ国へ本当に武器支援をしていたから、文句は言えないかもしれないが……。
 しかし、ドウルリア国王は歯ぎしりして、憤懣やるかたない。
 そもそも、ラビドワ国へ武器を支援したのは、日ごろ押さえつけているブレンハールの弱点を知ろう、と思ったためである。
 そうして戦い方を分析してみたが、ドウルリアがブレンハールと戦争して勝利する確率は、限りなく低い。
 勝機があるとすれば、前線へ出る女王を運良くしとめる以外ありえない。
 国土が広く、かり出す兵の数が尋常でないこともあるが、最大の問題は、竜だ。
 あの最終兵器たる竜を出されれば、もはやどうしようもない。
 ――ならば我が国も竜を飼えばいいではないか。
 とは、ドウルリア国王が若かりし頃思ったことである。現在では、それがかなり難しいことがわかっている。
 ブレンハールでは竜騎士団というものが結成されるほどに竜の飼育ができているが、他国ではなぜか、それができない。
 ロルの粉とチキッタの花を駆使しても、うまく竜を扱えないのだ。
 チキッタの花の効力が失せたと同時に竜は逃げ出す。ロルの粉を自兵にかけて、敵兵と戦わせようとしても、敵兵に会う前に飛んで逃げる。とにかく、扱いが難しすぎる。
 かといって、ブレンハールの竜騎士団に密偵を送り込み、その報告書を読んでも、近くに寄る人間はロルの粉をかける以外、特別なことをしている様子はない。
 ――竜を操る秘技さえわかれば、小国として見くびられているドウルリアとて、ブレンハールの属国となり果てないものを……。
 ドウルリア国王は、いつもそのことで悔しがっていた。
「……兄上、ブレンハールへの貢ぎ物のことで、何か?」
 玉座にいた国王のもとへ、弟がやってきた。繊細な金色の髪がさわやかに揺れる。若く、まだ妻子はいない。
「今回の貢ぎ物の使者を頼みたい」
「わかりました。それで、本当の目的は?」
 心中をわかりあえる弟に、国王はにやりと笑む。
「うむ。ブレンハールへ行ったついでに、竜を操る秘技を調べてほしい。どうすればドウルリアで竜を飼えるのかということを」
「……兄上、それはさすがに無茶です。使者が秘技を知れるほど、ブレンハールは甘くないでしょう」
「ならば、ご機嫌伺いとして、ブレンハールの女王の愛人となって取り入ってこい」
 敵対できる方法がないのなら、取り入るしかない。
 弟は整った顔立ちをしている。できないことはないだろう。
 王弟オレリアンは、やれやれとでも言いたげにため息をついたが、「御意」と言った。
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