翼なき竜

16.竜族の秘(1) (1/5)
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 年が明け、レイラ=ド=ブレンハール女王陛下の治世が、七年目を迎えたばかりの頃。
 正月だけあって、王城ではもろもろの行事に追われていた。
 その行事で華やかなのが、同盟を結んだ国々から貢ぎ物を持ってくる使者の来訪である。
 これは受け入れる我が国も、莫大な費用がかさむ。使者の歓迎を示すための行事、宿泊施設などなど。帰っていく使者へ、それなりのものを手みやげにして送り返さなければならない。
 大国としてのプライドがある以上、貢ぎ物を受け取るだけ受け取ったのではすまないのだ。
 宰相が宰相として就任してから、この行事にかかる費用を減らすことに苦心している。費用を減らし、なおかつ国の威信を損なわないというのは、なかなか難しい。
「それでは次は、ドウルリア国からの使者です。使者としておもむいてこられたのは、王弟オレリアン様。……今年の貢ぎ物は、昨年の二倍の金額をかけてこられたようです……」
 貢ぎ物にかける金額や量を減らすよう各国と調整してきた宰相は、貢ぎ物のリストを見て、暗澹たる思いだ。
 こんなに金をかけられたら、こちらもそれ以上に金をかけなければならない。
 しかし、今回は仕方がない。
 エル・ヴィッカの戦い後、ドウルリアを攻めようと女王は言った。撤回したとはいえ、ドウルリアとしてはそれで済む問題ではない。
 貢ぎ物の量を増やすことで、疑いを解いておきたいところなのだろう。
 ――事実はともかくとして。
 女王は謁見の間の玉座で宰相の発言を聞きながら、隣に愛竜ギーをはべらせている。
 ずらりと並んだ臣下の中から、老臣が前に出た。
「ところで陛下、その使者のオレリアン様について、何か知っておられるか?」
「……? ドウルリア国王の政務を助ける、優秀な弟だと聞くが?」
 老臣はにんまりと笑む。
「それがもう、大変な美男子だそうで」
 女王は一気にげんなりとした顔をする。
「そうかそうか。それはお嬢さん方の眼福になるな。よかったよかった」
 おざなりな女王のあしらいに、老臣はむきになる。
「真剣にお聞き下さい! どのようなことが暗に匂わせられているか、おわかりでしょう! ドウルリアは結婚を申し込んでいるのではなく、愛人でいいと言っているのじゃ」
「あああ愛人!?」
 宰相が頓狂な声を上げた。
「王弟ならば、正々堂々と結婚を申し込むのが普通。愛人とまで妥協し腰を低くして王弟を差し出すドウルリアとの関係のためにも、貢ぎ物と一緒に受け取っておくのが、得策かと」
 ドウルリアの使者・オレリアンが特別謁見室に来る合図の、ラッパが吹き鳴らされた。


 オレリアンとの謁見が済んで、女王は執務室で一人、ペンをすべらせていた。
 部屋の前には兵士が立ち、扉が閉じている。
 その重い扉を幽霊のようにすりぬけ、ぬっと現れた子どもがいた。
 女王は顔を上げると、名を呼んだ。
「ギャンダルディス」
『……女王を続ける、だって?』
 ギャンダルディスの顔は冷え冷えとしている。
『君はばかだよ。僕の言うことを聞かなかったのかい。君は王でいる必要はない。王国に、君は必要ないって。あんなに言ったのに』
「……何を言われようと、私は王を、もうやめない」
 ギャンダルディスは小さな手を彼女の頬に伸ばした。
『痩せたね? それに睡眠不足みたいだ』
「……睡眠時間は、減ったな」

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