翼なき竜

14.英雄の場(2) (4/4)
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 空はいつの間にか、曇り始めていた。


 エミリアンの寝室には、彼の正妻であるセリーヌ、部下、医者たちが集っていた。
 誰もが静かにかたわらにいる。
「父上!」
 女王はエミリアンのもとへ走り寄った。
 ベッドで伏せるエミリアンは、顔だけを娘に向けた。
「父上、父上」
 エミリアンの口許には吐血した跡があった。
 落ちくぼんだ瞳が女王を注視している。
「……レイラ」
「はい、ここにいます、ここにいます、父上」
「……最期に、二つ、願いがある」
 エミリアンのかすれた声は虫が鳴いたように小さい。女王は必死に顔を寄せ、耳を澄ます。
「わしを、殺せ、お前の手で」
 臓腑を絞り出した苦しみと決意の塊のような声だった。
 女王の後ろに付き従っていた宰相は、はっきりとそれを聞き、顔を歪ませる。
 一番近くにいた彼女はぴくりとも動かなかった。
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