翼なき竜

8.誘惑の魔(1) (7/7)
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 用意に走り回った料理人には悪いが、これでは無理だ。肴は多く用意してあったし、腹はすいてないだろう。飲み会をしてつぶれたような状態だ。
「ブッフェン様、大丈夫ですか?」
 肩を叩くと、ブッフェンの口ひげがもじゃもじゃと動き、まぶたがゆっくりと開く。
「気分は悪くないですか?」
 ブッフェンは頭を揺すりながら体を起こす。何度かうなずき、立ち上がり、扉へと向かった。
 足取りはよろよろしているが、歩いているし、倒れそうな様子はない。
 使用人を一人つけさせて、宰相は女王へ向き直った。
 女王はグラスからまだワインを飲んでいた。顔は赤い。黙々と飲んでいるのだった。転がっている瓶を数えると、大分飲んだようだ。
「陛下、もう本日はこれくらいで。お部屋に案内しますから」
 女王はグラスのワインを飲み干すと、立ち上がる。とろんとした黒い深淵の瞳がじっと宰相を見た。
「私は、私は間違えていない……っ」
 女王は発奮して決意するようにつぶやいていたが、宰相には意味がわからなかった。
「お前の部屋はどこだ?」
「え? 中央廊下の西の奥にありますが……」
 女王は歩き出した。扉を出て、向かう方向は廊下の先。
「お前の部屋で寝る」
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