翼なき竜

4.有翼の君(3) (7/7)
戻る / 目次 / 進む
 だが、かわいそうだから、というのは、どう考えていいのかよくわからなかった。
 たとえば女王と結婚できたとして、それは全然悲しくないし、むしろ嬉しくて嬉しくて仕方がないはずだ。
 それが、かわいそうって。
 嫌な考えが、浮かんだ。
 もしかして女王は自分の気持ちを知っていて。結婚したら喜ぶだろうことも知っていて。
 宰相が自分の結婚した場合を予想するなら、女王が同じくらい自分を好いてくれているから結婚を受け入れてくれた、と思うはず。
 そうではない、ということなのでは?
 つまり……女王は、『何とも思っていないのに適当な気持ちで結婚してしまえば、好いてくれたと有頂天になる宰相がかわいそう』だと言ったのでは?
『夫に迎えたいなんて一言もいっていない』という発言も、何とも思っていない、という意味であろうし……。
 家柄も地位も関係なく、単純に気持ちの上で考慮の外、という意味、か。女王にとって、あくまで宰相は宰相、臣下に過ぎない、ということか。
 ……これほど胸にダメージが来る理由もないな。
 このまま座り込み、二、三日飲んだくれようか。
 宰相はそこまで捨て鉢になれない自分をわかっていながらも、ぼんやり思った。
 青銀の髪が窓からの風に揺れた。
 柔らかな春の微風が王城をめぐる。髪だけでなく、頬も撫でていく。それは慰めるような風だったかもしれない。
 それでも、宰相には冬の霜風のように、冷たく感じた。
戻る / 目次 / 進む

stone rio mobile

HTML Dwarf mobile