奪ふ男
ジョーカー 1−4 (4/4)
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そう考えていくと、心の中がすっきりとしてきた。ルリを嫌うことなく、僕はすべきことを見つけた。多少ルリへの怒りや恨みは残ったけれど、それ以上に鈴山への嫌悪が打ち消してくれる。
全て悪いのは鈴山。こいつを排除すれば、僕たちは元通りになるんだ。
本当に頭の中の血管が、何本か切れたのかもしれない。今までにない発想が思い浮かんでくれたのだから。
僕は二人の前に姿を現した。
「鈴山、君」
かすれた声で、彼を呼んだ。
二人はびっくりしているようだった。それぞれパンと紙パックを持ったまま、微動だにしない。
「君に、話があるんだけど、いいかな」
僕は鈴山をまっすぐ見上げ、淡く微笑む。鈴山が動揺しているのが、手に取るようにわかる。
「お、俺に……?」
「うん。君に。君と二人きりで、話がしたいんだけど」
二人きり、というところを強調しながら、ちらりと窓の外にある時計台を見る。
「昼休みは終わるから、放課後でいいかな? ……それとも、僕と話したくない?」
少しうつむき、悲しげに瞳を揺らすと、鈴山はすぐに横に首を振った。
「いや全然! 放課後だな、わかった!」
「ありがとう。じゃあ、放課後……校舎の裏でいいかな?」
今度は鈴山は前後に首を振る。
「わ、わかった。ちゃんと行く!」
「うん。ありがとう。じゃあ……放課後にね……」
僕は妖艶に笑み、かすかにうなずいた。立ち去った後も何度か後ろを振り返りながら、鈴山に手を振る。
角を曲がった時点で、作り物の笑みを消す。
……その時点で、僕にはこの後の計画が成功することは、わかりきっていた。
僕の力で、無理に鈴山を押し倒し地面に縫いつけることは困難だ。
だけど甘く囁けば、それは簡単だ。今までの人生の上で自信があった。
鈴山を校舎の裏の地面に押し倒し、僕は見下ろした。このまま首を絞めてやろうか――首筋を撫でながら、そんなことを考える。しかしシミュレートしてみると、その場合鈴山は死にものぐるいで抵抗する。僕と鈴山の腕力差を考えると、そうなったら返り討ちに遭う。
やはりここは計画通りに進めなければならないだろう。僕の目的は、怒りのままに殴り、自己満足を得ることじゃない。こいつをルリの前に二度と顔を出させない、別れさせるという、崇高な目的があるのだ。
鈴山は性急に、僕にキスをしようとした。やんわりと奴の口の上に手をかざし、それを直前で止めた。
「まだダメだよ」
「な、なんでだよ」
「だって鈴山君、ルリと付き合っているでしょう?」
鈴山はたじろぎ、視線を逸らした。
「僕は鈴山君に、僕だけを見てもらいたいんだよ……ね」
僕は手を下におろし、軽く撫でる。
僕は唇が触れる間際まで顔を寄せ、鈴山と視線を合わせる。憂いを帯びた表情を浮かべて。
「僕とルリ、どっちを選ぶ……?」
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