奪ふ男
ジョーカー 1−4 (3/4)
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確かに僕だって、彼女の表面的なところ――こいつらの言うカラダに、魅力を覚えている。けれど、それは内面の美しさを知っているからこそで、カラダだけいい女なんて、ごまんといる。畜生、水泳部なんて早く辞めさせるべきだった。
ごくりと安崎は唾を飲み込み、興奮気味に鈴山に近づく。
「そ、そのカラダが、お前のものなの?」
それに対し、得意げに鈴山はうなずく。
お前のものじゃない! 僕は叫びたかった。
「……で、どうだったわけ?」
安崎が探るように訊く。すると、今まで優越感丸出しの鈴山が、微妙に口ごもった。今度は安崎が笑った。
「なあんだ、お前まだなんだろ。何やってんだよ、そんなカラダ前にして」
僕はあからさまにほっとした。
「うっせえな。煩悩まみれのお前と違って、谷岡はピュアなんだよ!」
ピュア、という言葉に、安崎は笑い転げた。よほど笑いのツボをつかれたのか、何度も自分で言って、そのたびに笑う。
鈴山はむきになって言う。
「まだ付き合って間もないんだよ! この前、ちょっと無理にキスしたら、谷岡、顔赤くして、『ファーストキスだった』って言うんだぜ? その先どころじゃねえよ」
……ファーストキス? ルリの、ファーストキスが、こいつと……?
くくくくく、と安崎は笑う。
「いかにも慣れてなさそうだもんな。谷岡って男と話すタイプじゃなさそうだし……あ、そういえば、妙にあの金原と一緒にいたよな?」
自分の名字が出て、僕は思わず反応した。
「なんか家が近い幼なじみらしいぜ」
「あれも不思議だったよなあ。目立ちまくりの金原とジミな谷岡が一緒にいるって。金原狙いの奴が谷岡のことライバル視してなーんかしてたようだけど、どう考えたって見当違いだよな。金原が谷岡と付き合うわけねーって。もっといいのいるだろ」
もっといいのなんて、いない。こいつらの目は節穴か。
ひとしきり言った安崎はふいに落ち込んだ。はあ、と深いため息をつき、やきそばパンをもそもそ食べる。
「でもやっぱりショックだ。お前に彼女……。あーんなこともそーんなことも、し放題なんだよな……」
「うらやましいだろ」
「うん。なー、お前の後でいいから、谷岡貸してくれ。お願い!」
おがむフリをする安崎に、鈴山は笑いながら、ばーか、と言った。
脳の血管が全部、ぶち切れるかと思った。
もともと鈴山に好感情などこれっぽっちもなかった。僕がいるはずだった、ルリの隣を奪った男。邪魔者以外の何者でもなかったのだから。
しかしこの下劣で下種な会話を聞き、それ以上の嫌悪感を持った。
この男は、ルリの近くにいるべきではない。ルリを汚すだけだ。排除しなければならない。
……そうだ、初めからそうするべきだったのだ。どうすることもできない、なんて悩んでいたなんて、どれだけ僕は馬鹿だったのだろう。別に何をしたっていいじゃないか。
不必要な存在は排除する。こんな簡単なことをしないなんて、ルリに付き合うと言われたショックが大きすぎたんだ。
そうだ。きっとルリは騙されたんだ。ルリはやさしいから、こんな汚らしい奴の言うことを聞いて、丸め込まれてしまったんだ。
このまま騙されて付き合い続けたとしても、ルリは『鈴山程度の男と付き合う女』と見下されてしまう。彼女の価値を下げることにしかならない。でも大丈夫。僕がしっかりと、ルリの前に顔を出せないように、排除しておくから。
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