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(この話は、4話〜5話の間の時間軸の番外編です。しかし5話に初登場のキャラクターもいる番外編なので、5話までお読みいただいてからどうぞ)


 番外編  幽霊


 1 パトリーとオルテス


「いたたたた、足が痛い〜〜」
「日ごろの運動不足のせいだろ」
 場所はその町で唯一の宿屋の入り口。
 ハリヤ国とミラ王国の国境で馬を失ってから一日後のことだ。
 馬車を手押しでなんとか馬牧場まで運び、なんとか馬を手に入れたはいいが、重い馬車を運んだおかげで体中、ひどい筋肉痛に襲われた。特に足が痛い。
 ここは小さな町で、一つしか宿屋は無かった。
「あらまあ、若いお客様ですこと!」
 奥から現れたのはおかみさん。続いて主人が現れた。
「いらっしゃいませ、さあさこちらへ」
 パトリーは少し歩いただけで痛む足に顔をしかめながら、カウンターまで歩く。
「三名様ですか」
 パトリーとオルテス、それと御者の三人。
「ええ。それと馬が1頭いるから、それも頼むわ」
「あいにくと部屋は一室しかございませんが、よろしいでしょうか。値段はこの通りで」
 示された値段表を見たパトリーは顔をゆるめた。
「安いわね。じゃあ、ここに決めたわ」
 おかみさんに案内されて、パトリーたちは奥の部屋へ進んだ。
 内装はぼろぼろだ。ランプはふいに切れるし、蜘蛛の巣まではっている。
 値段が値段の為にパトリーはそれに目をつぶる。金を払っていないオルテスは心の中で顔をしかめた。
 どうやらこの宿屋は副業としてやっているらしい。だから部屋は1室しかない。同じ家でここの人たちは暮らしているようだ。
 部屋へ到着すると、「言い忘れていましたが」とおかみさんが切り出す。
「この部屋、出るんですよ」
 その瞬間、パトリーの顔がこれ以上ないほど青くなった。
 オルテスはわからないのか、なにがだ、と問う。
「もちろん幽霊ですよ、ゆ・う・れ・い! ちまたで噂にもなっているんですよ」
 おかみさんは、ではごゆっくり、と出て行った。
「おれは構わないがな」
「ゆゆゆゆゆゆゆ幽霊なのよ!?」
 がくがく足が震えて声も震えた様子を見れば、パトリーは幽霊が苦手だというのは一目瞭然だった。
「幽霊なんて、ただの噂だろう。それとも、パトリーは見たことがあるのか?」
「み、見たことはないけど、シュテファン兄様や姉様たちから小さいとき、たくさん怖い話聞いたわよ。そういうこと聞いた夜中って、何かいるような気がしたしっ!」
 こんなにおびえられれば怖い話をしたくもなる。
 だが、オルテスは説得しなければならない。このままだと、町にいるにもかかわらず外で野宿になりかねない。
 ことのほか優しくオルテスは話す。
「パトリー、幽霊の存在なんて証明されたことがあるか? もし死人が幽霊となるなら何匹になると思う。人類の歴史が何年あるかなんて知らないが、確実にこの世は幽霊に埋まっている。そうなっていないだろう? だから、幽霊なんて存在しない! わかったか?」
 人畜無害面のオルテスに説得されるとパトリーは弱い。
 しかしこのときばかりは恐怖が勝った。
「で、でも、怖いわよ……何があるかわからないし。やっぱりこの部屋やめて、外で野宿……」
「パトリー! 筋肉痛がつらいんだろう? 旅もずいぶんになるし、ろくにいいベッドで寝ていない。ふかふかのベッドで寝たくないか?」
 確かにここのところ野宿ばかり。筋肉痛で体中が痛いから、ふかふかのベッドで眠りたい。おまけにずいぶんと疲労も蓄積されている。
 疲れている。休みたい。
 本当はおんぼろのベッドのはずが、天蓋つきの羽毛のベッドに見えてきた。
 パトリーは筋肉痛に負けた。


 がたがたがたがた。
 揺れているのは窓ではなく、ベッドの中にいるパトリーだった。
 夜も更け、窓からは月が妖しく輝く。
 怖いから早くに寝ようとしたのだ。だが、そういうときに限って眠れない。眠ろうとすればするほど眠れない。体は疲労を訴えているのに、恐怖がそうさせてくれない。
 ひゅ、と音がしたかと思うと、廊下の灯りが消えた。
「!!」
 部屋に灯りはない。廊下からの灯りが消え、窓から見える月しか明るさは無い。
 パトリーはシーツを強く握りしめ、ギン、と窓だけを睨みつけるように見つめた。
 とてつもなく暗闇が怖くなったからだ。
 普段はそうではないのだが、幽霊という言葉が耳に入れば、とたんに恐怖する対象となる。不思議なものだが、その不思議さを論理的に考える頭などそのときのパトリーには存在しない。
 睨み付けて、少しだけ暗闇に慣れた頃だった。
 急に窓に、黒いシルエットが現れた。
「え!?」
 声を出すや否や、下に消えていった。
 震えはとまらない。悲鳴を出さないことが精一杯だ。
「お、オルテス!! 起きてる? オルテス!」
 パトリーの隣のベッドがオルテスのものだった。
「…………パトリー……? なんだ……」
「ろ、廊下の灯りが消えて、今! 窓に、黒い人影が見えたの!! ゆ、幽霊よ!」
 眠たげなオルテスはそれを隠そうとしない。
「……見間違いだろ……さっさと眠、れよ……」
 どんどんと小さくなる声に、パトリーは悲鳴にも似た声を上げる。
「オルテス!!」
 背中を向けたままのオルテス。
 パトリーの目の前にぴちゃん、と何かが落ちた。
 恐怖のあまりパトリーは声が出ない。
 気のせいだ、気のせいだ、と自分に言い聞かす。上は見上げない。
 今度はぴちゃん、とパトリーの頬に何かが落ちた。
 気のせい、とは言えなかった。
 ぎぎ、とゆっくりパトリーは顔を天井に向ける。
 上に何かがいた。
 確かに、何かがいる。
 暗闇にとけ輪郭がはっきりとしないが、確かに何かが――
 歯はがちがちと鳴り、涙が目にたまる。
 何かは手を伸ばし、パトリーの頬に触れた。
 水に濡れ、冷たい手で――
 パトリーの限界点が突破された。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
 手をどかしてパトリーはベッドから出て、オルテスのベッドにもぐりこんだ。
 そして背中に強くすがりつく。
「?! パトリー??」
 さすがにヒステリックな叫びと、ベッドへの異物感にオルテスははっきりと目覚める。
「幽霊よ! 幽霊が!! 幽霊がっ!!!」
「落ち着け、パトリー。言っただろう。幽霊なんてものが存在するならこの世は幽霊に埋まっているはずだ。そうなっていないのだから、幽霊なんて存在しないと」
「そんな理論どうでもいいわよ!! あの濡れた冷たい手!! 怖い、怖いっ!!」
 パトリーはぎゅうう、とオルテスを背中から抱きしめた。
 珍しくもオルテスがあわてる。体をひねり、パトリーをはがそうとする。
「おい、落ち着け、パトリー、おい! とりあえず離れるんだ、おい、冷静になれ、聞こえているのか? 何をやっているかわかるか!? 落ち着けっ」
 パトリーは聞いていなかった。ただもう怖さのあまりすがるだけだ。
「キキィッ!!」
 同じ部屋で眠っているはずのルースが急に混乱したように飛び回り始める。
「きゃあああああ!!」
「おい、ルースも何があった!? とにかく落ち着け!!」
 このままでは埒が明かない、とオルテスは体を起こそうとするが、パトリーが強く抱きついているせいでうまく起きれない。
 半分だけ起きた上半身で暗闇の中、必死に目を凝らす。
 きょろきょろと見回すオルテスの頬に、何かが触れた。
 ぴちゃ、と音をさせながら。
 オルテスの動きが止まる。部屋の中でルースだけが混乱して動き回る。
 手、であった。濡れた冷たい手。
 瞬時に悪寒が走る。
 だが、彼はパトリーとは違った。
 恐怖にふたをして、その手を掴んだ。そしてぐい、と引っ張る。
「え? え?」
 上から戸惑いの声がしたかと思うと、どしん、と落ちてきた。
「いたたたた……」
 剣を構えてオルテスは堕ちてきた人物に目を凝らす。
 すると、それが誰かわかった。
「あんた、この宿のおかみさんか?」
 腰をさすっているのは、確かにおかみさんだった。
 真っ黒い服を着ていて、手が濡れたおかみさん。
「お前! 大丈夫か!?」
 窓から顔を出したのは主人。
「……どういうことなんだ?」
 据わった目でオルテスは問いただした。

 話を聞くと、この宿はろくに人が来なくて困っていたらしい。
 人を呼び込むためにどうするか、と考えたところ、幽霊の出る宿屋にしよう、と落ち着いた。
「そうすれば幽霊目当てでその筋の人が来てくれるかもしれませんからね。あと、カップル同士ならこうして怖がらせることで親密度もアップして、リピーターになってくれるかもしれませんから!」
 あっけらかんと言う二人にオルテスはこめかみを押さえた。
 いまだルースはびゅんびゅんと飛び回っているが、ひっ捕まえてやりたい。
「あんたたちの考えには決定的な欠陥が三つある」
 オルテスはやけっぱちになったかのように適当に言い出す。寝起きは最悪な気分だ。
「第一に、それだと逆に幽霊嫌いの客は来なくなるということ。第二に、こんなに怖がられれば親密度どころではないということ。第三に、しっかりと眠りたい休みたいと思っているおれのような客に迷惑だということ! 第四に、おれとパトリーはカップルでもない! そして第五に!」
 もはや三つ以上になっていることも気づいているのかいないのか。勢いでオルテスは言葉を続ける。
「第五に、カップルだと誤解したところまでは百歩譲ってよしとしても、三人で寝ているこの部屋で親密度だかなんだか、何をしろと言うんだ!?」
 びし、とオルテスが指差した先は右のベッド。
 そこには影の薄い御者が、これだけ騒ぎがあったにもかかわらずぐっすりと、それはもう心地よさそうに、もう食べられないよう、と寝言まで言って眠っていた。
 ぎゃーぎゃーとルースが騒ぎ続けていたが、その他の人々はただ口を閉ざした。
 微妙な沈黙。
 いつの間にかオルテスに抱きついたままパトリーは眠っていた。至福と言わんばかりに。


 翌日、上機嫌な様子のパトリーに、どうしたんだ、とオルテスは尋ねた。
「うん、実は昨日、すっごいいい夢を見たのよ。超巨大な熊のぬいぐるみとお昼寝をする夢で、至福だったわ〜」
 げっそりとした表情のオルテスとは対照的だった。
「……パトリー、昨日のこと、何にも覚えていないのか?」
「え? 何? 昨日の夜、何かあったかしら?」
 どんな作用か、昨日の夜の恐怖体験はパトリーの記憶から消去されたらしい。便利でうらやましい頭を持っている。
「オルテスはどんな夢見た?」
 結局その後パトリーを引っぺがしたものの、ルースがうるさすぎたせいでまったく眠れなかったオルテスは、
「悪夢だったよ」
 と、疲れの取れていない顔でそう言った。



2 リュイン


 時間軸としては幽霊騒ぎのあったパトリーたちとほぼ同時期。
 つまり、まだリュインがオルテスと再会していないころ。
 かつかつ、とブーツの音を鳴らす女騎士に連れられて、荘厳な宮殿の奥までリュインは連れられていた。
 ミラ王国の首都・テベにあるテベ城。
 彼は本来ミラ王国よりも南にあるハリヤ国へ外交のため旅をしていたのだが、その途中、このテベでミラ王国からしばし留まるよう勧められた。
 リュインは極寒の国・グランディア皇国の高官であるので、断らずにしばらく滞在していた。するとあるとき、女王が会いたいと所望している、と言われこうして王宮の奥まで案内されている。
 女騎士は、扉前の兵士たちに、重そうで細工に凝った扉を開けさせた。
 中にいたのは、喪服を着た老女だった。
 年齢は確か50を過ぎていたはず。真っ白な髪を比較的簡素に結わえ、ぽっちゃりとした体型はまさにおばあちゃん、といった風情。
 リュインはこの方がエリス女王か、と瞬時にわかった。
 ミラ王国では現在立憲君主制。
 政治はほぼ議会が運営し、エリス女王は国民の信望を集めるものの、ほとんど政治に関与せず王宮の奥にこもりきりだという。
 リュインは膝をつき、形式的な挨拶を始めようとしたところ、エリス女王が、
「いいのです、いいのです。そのようなこと。堅苦しいことはやめましょう」
 と笑ってほほにしわがよった。
「一度、あなたにお会いしたいと思っておりました。『不老不死の魔法使い』さん」
 リュインは何も言わず、ただ耳を傾けていた。
「1000年近く生き、グランディア皇国にあり、かの国をずっと支えてきたそうですね。本当にお若いこと」
 リュインはそれを否定も肯定もしない。
 女王の傍にいた女騎士が疑わしい目でリュインをにらんでいることに気づいていた。
 おそらく、その『不老不死の魔法使い』という胡散臭さ、それと無国籍風の変わった服が、気に入らないのだろう。
 魔法使いの存在を信じるのは、この大陸ではもう少ない。そのやることが魔法でもなんでもないとわかってきているからだ。
 このエリス女王も同じ態度を取らないのが不思議だ。
「『不老不死の魔法使い』さん、ねえ、私が望めば私を不老不死にさせてもらえますか?」
「……畏れながら、女王陛下。それは無理な話でございます」
「まあ、どうして?」
「わたくしのできることは本当に些細なこと。できるものならばわたくし、グランディア皇国の歴代の皇王陛下にそうしているからでございます」
 ほほほ、と上品にエリス女王は笑う。
「冗談ですよ。夫もいないというのに、そのようなこと。からかっただけです。
 ならば、リュイン殿、降霊、はできますか?」
 ぴくり、と後ろに立つ女騎士が表情を動かした。
「降霊でございますか。わたくしには少々分野外ですが、なんとか」
 『魔法』の分野に、霊的なものを混同する人は多い。多少は知っているので、リュインは受ける。
「ならば、私の夫、バーソロミューの降霊を、お願いしたいのです」
 それはなんとなく察しのついたことだった。噂で聞いている。
 エリス女王の夫君、バーソロミュー殿下がお亡くなりになったのは20年以上も前。だが、エリス女王の悲しみは癒えることなく、今でも喪服を着てすごしていると。
「わかりました」
 丸いテーブルを用意して、三人は交霊術を開始した。エリス女王とリュイン、そして後ろに控えていた女騎士。
 交霊術は驚くほど簡単に行われた。
 手をつなぎあった三人。少々の作法があったが何時間も時間はかからなかった。
 リュインは急に表情が変わり、かくん、と下を向いて、
「……ここは、どこだ」
 と、違う声で話し始めた。声はずいぶんと低く、話し方も違う。
「バーソロミュー? バーソロミューなの?!」
「誰だ……」
「私です、エリスです!」
「エリス……? 暗闇で見えない……本当に、エリスか……?」
「ええ! あれから二十年も経って、姿も声も変わりました」
「おお……エリス……」
 低い声で聞き取りにくかったが、エリス女王は懸命に聞いた。
「……ジョアンは……わたしたちの息子はどうした……?」
「ジョアンももう、四十も過ぎて、結婚して子供もいるのですよ」
「あのジョアンが……」
 エリス女王は何かをためらっていたが、どんな逡巡があったのか、『バーソロミューであるリュイン』に相談を始める。
「バーソロミュー、私どうしても相談したいことがあるのです。そのジョアンが私に、議会に全て政治を任せるのは危険だ、議会を解散させるべきだ、と言うのです。王位を継いだらそうする、と言うのです。私としては政治など興味がなかったから議会に任せたのですが、ジョアンを諌めるべきかどうか、私には判断できかねて……」
 ぎょっとしたのは女騎士だった。
「女王陛下! そのようなことを……!」
「エリス」
 さえぎるようにリュインの口から言葉が出た。
「エリス、次世代のことは次世代に任せなさい。世の中が変われば考え方も変わる。国の制度が変わるのも、不思議ではない……」
 う、とリュアンの口からうめき声が漏れた。
「エリス、わたしはもう、行かねばならん……ジョアンのこと、孫のこと、頼んだぞ……」
 そうして交霊会は終わった。
 しばらくするとリュアンの表情も声も、もとのように戻って、
「どうでしたか?」
 と訊ねた。声は確かにもとのリュアンのもの。
「リュイン殿、ありがとうございます。久しぶりに夫に会え、本当にわたしは……」
 と、ぽろ、と涙がエリス女王の目から流れた。すぐにレースのハンカチでぬぐう。
「褒賞を与えましょう。しばらくテベ市内でお待ちください」
 リュインは礼儀にかなった方法で頭を下げ、扉から出て行った。
 王宮を歩くにふさわしからぬ服をなびかせ、ゆっくりと歩くリュインに、
「お待ちください!」
 と声がかかる。
 ゆっくりと振り向くと、先ほどの女騎士。
「リュイン殿、あれはどういうことですか!?」
 リュインは首を傾げるものの、笑顔のまま。
「とぼけられるな。ジョアン殿下についての讒言のことです!」
「おかしなことをいいますね。言ったのはわたくしではなく、亡きバーソロミュー殿下ですよ?」
「あれが本当にバーソロミュー殿下かなど、貴公しかわからんではないか」
「エリス女王陛下はすぐにそう言いましたでしょう? バーソロミュー殿下だと見抜く何かがあったのでしょうね」
 女騎士はかつかつと靴を鳴らして近寄った。
「ことによると、グランディア皇国によくないことが起こるやも知れんぞ」
 押し殺した声に、リュインは片眼鏡を少しずらす。
「……なるほど、あなたはわたくしに、『あれは全てこのリュインの芝居でございます。バーソロミュー殿下の言葉ではありません』と言ってほしいわけですね?」
「ああ、女王陛下へ確実に、だ。――リュイン殿は賭け事がお好きだとか。聞いていただけるなら近くにも口座に、いくばかりかの金が振り込まれているでしょう」
 リュインは笑う。
 今、政治を動かしているのは貴族や議員。
 この時期に恩を売るべきは、玉座に座るだけの人形ではない。しかし、今後のことを考えると……
 さて、としばらく思考をめぐらせる。
 この女騎士の脅しをつっぱねるという方法も、なきにしもあらず。
 外交に携わるものとしてこのチャンスを逃す手は無い。議会の人々からいただく金品の額をつり上げるか、他にどう、うまくことを運ぶか。
 全てはグランディア皇国のためになることを。
 さてさてこのハプニング、どうしたものやら。
 考え込むリュインに、女騎士は声を投げる。
「ひとつ聞くが、あれは貴公がこの国に害をなそうとしての芝居か? ……それとも『不老不死の魔法使い』……あれは本当に、亡きバーソロミュー殿下だったのか?」
 おぞましいものを見るかのように距離をとる女騎士に、リュインはふふ、と笑って言った。
「知っておられますか? カードの基本中の基本は手札を見せないことです。『不老不死の魔法使い』もそれは同じですよ」




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