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 第40話 ノーブレス オブリージュ(1) 


   *


 二年前のパトリーはまだ会社をたてていなかった。市場に頻繁に出入りしていたものの、自身の将来が誰かと結婚してその妻となることだと、疑問にも思わずにいたので、生涯の仕事としては見ていなかった。
 それでもパトリー自身、市場でさまざまな商人に商売のことを教えてもらったので、
「今までありがとう」
 と、婚約が決まったときには市場に感謝を述べに来た。
 みんな祝福してくれた。尊敬する商人のエディも喜んでいてくれた。
 それが最後だと思って、パトリーは涙ぐみながら、市場から家に帰った。
 コーマック卿と会ったのは、たった二度だ。そして彼の年は三十を超えている。
 それでもパトリーはコーマック卿の好みや嗜好を知ろうと努力していたし、不安には思っても、同じように結婚を控えるケートヒェンと話をすることで、なんとかまぎらわせていた。
 ケートヒェンがミラ王国のニファー伯爵のもとへ嫁いでからは、パトリーはますます不安になったが、やはりそれでも、コーマック卿の妻として立派な女になろうと、努力した。
 苦手な裁縫や料理などの花嫁修業を、義姉・シルビアと共に行っていたくらいに。
 未来は希望に溢れ、想像の未来には生々しさはない。
 ……コーマック卿が亡くなった、と聞いたのは、この先に敷かれた未来を思い描いていたときだった。
 馬車の事故。転落して、即死したと。
 持っていた皿を取り落とした。
 呆然とした、とはこのようなことを言うのだろう。
 周囲はあわただしく動き、パトリーに喪服を着せ、葬式行きの馬車へ乗り込ませた。
 共に乗ったのはシュテファンだった。同じ馬車に乗ったものの、会話は一つもなかった。
 天気は悪く、ときどき雷が光っている。
 教会の葬式の場に到着したときには、大雨が降っていた。どどどどと滝のような音をたて、ときおり雷が光るような。
 雨に濡れながら教会へ入ると、コーマック卿の両親が泣いていた。
 彼自身は、目を閉じ眠るようにして横たえられていた。教会は暗かったが、彼の顔が青白く生気がないよう感じられたのは、それだけのせいではない。
 パトリーは目の前が滲み始める。
「子供がいたんですって」
 パトリーの涙は思わず引っ込んだ。
「同じ馬車に乗って、一緒に亡くなったと」
 その話に唖然としたのは、パトリーだけではなかった。共に付き添っていたシュテファンもだった。
「いったいどういうことですかな?」
 シュテファンはコーマック卿の両親に敵意を向ける。
「子供? 私はそんなこと、聞いていませんよ……そのような重要なことを知らせないとは、私に対する侮辱ですか」
「いえ、私どもも、さっき初めて知って……」
 コーマック卿の両親は困惑している。
「男の子ですって? 女ならともかく、男? 相続的にとても重要なことですね!」
「いえ、本当に私どもは知らなかったのです。息子はずっと隠していたようなのです」
「子供は六歳だとか。少なくとも六年、あなたたちは気づかなかったと。ええ? 相手は小貴族の娘? たかが小貴族といえど、貴族……。これはクラレンス家に対する侮辱ですか。少なくともコーマック卿は、クラレンス家に対し、誠意を見せず嘲笑っていたようですね!」
「い、いいえ! 息子は、きっとそのようなこと……」
「パトリーが男子を産んだとしても、確実に相続問題が発生する。それがわかっていて隠していたのだから! ……クラレンス家は、売られた喧嘩は買う。覚悟することだな!」
「シュテファン兄様……もう、もう、やめて……」
 パトリーはいたたまれなくなって、コーマック卿の両親をいたぶる兄を止める。
「黙れ! くやしくないのか! お前はそれでも大貴族クラレンス家の娘か! お前はたかが小貴族の娘と同列に扱われたのだぞ!」
「そのようなことは、決して、決して、ございません!」
 コーマック卿の親は必死に否定する。
 だがシュテファンは、甘い菓子を食べていたようなパトリーに、塩辛い現実をつきつける。
「お前は婚約者に、『愛人を持ち隠し子がいようとも問題はない。結婚後、妻が知って、どう言われようとも知ったことか。妻となるパトリーなど、その程度の価値しかない女だ』と思われていたのだぞ!」
 パトリーは心が砕けた気がした。
 たった二度しか会っていなくても、ずっと、この人が自分の夫となるのだ、と思っていた男だ。
 その男が、自分をそう捉えていたというのは、パトリーにショックを与えるのに十分だった。
 二度しか会っていないパトリーに、今の言葉を否定するすべもない。そして現実に子供がいて、それが隠されていたという事実――。兄の言葉に嘘はない。
 そんなとき、泣き叫ぶ女の声がした。
「どうか、どうか、コーマック卿と、息子を、隣に墓をたててやってください!」
 それが、初めて会うヴェラであった。
「こ、こら! お前は、この葬式に、呼んでおらん!」
 コーマック卿の父が、慌てて、彼女を教会から出そうとした。
「どうか、息子はコーマック卿の子です! 神に誓って! 隣に墓をたててやってください!」
「し、知るか!」
 ヴェラはパトリーの方を見た。
 彼女は自分を、コーマック卿の婚約者だと認識したのだろう。敵意を向けて睨んだ。
 そんな様子に、パトリーはかっとなった。
 なぜ、自分がそんな目で見られなければならないのか。
 腹が立っているのはこちらなのである。
 今まで知らされず……もしコーマック卿が生きていたら、おそらく結婚後に知ったであろう事実。彼らは、パトリーを笑っていただろう。何も知らずにいる、小娘だと。
 睨まれるいわれなど、かけらもなかった。
 むしろ騙していたのはそちらの方なのだ。
 これが公になっていれば、パトリーはコーマック卿と婚約することも、こうして今、恥をかかされることもなかっただろうに。
 結婚せずに子供ができていたというのも、子供ができてもなお結婚せず、関係が秘密にされていたというのも、パトリーの当時の潔癖な倫理観から、信じられなかった。
「あ……あなたたちが、結婚していれば、あたしはこんな思いをしなかったのに!!」
 パトリーは叫んだ。
 その瞬間、ヴェラが壮絶な顔で睨み付けた。
「お前に……お前に、何がわかる! わが格式高い由緒正しき家が、皇家に取りつぶし寸前にまで追い込まれ、そのために、結婚をしたくともできなかったことなど! シュベルク国皇家をただただ敬っている影で、我らのようにおとしめられた人間のいることなど! 毎夜毎夜大層な金をかけて舞踏会を開き、浪費生活を送る貴様ら成金共に、何がわかる!」
 壮絶な、憎しみと怒りがこもった言葉である。
 パトリーはそれまで、そこまで深く濃い敵意と、正面から向けられた暗い憎しみの言葉を、聞いたことがなかった。
 思われているような、浪費生活なんて送っていない。毎晩舞踏会なんて開いていない。それはただの、大衆に広がるイメージにすぎない。
 そう言おうとしても、ヴェラの迫力に、何も口にできなかった。
「何も知らないお前が! 私とコーマック卿との間に横から入ってきたお前が!」
 コーマック卿の父は、慌ててヴェラを教会から外へ追い出した。
 ヴェラは外へ出ても、何かを叫んでいるようだった。
 その声が大雨の打ち付ける音と雷鳴にかきけされたころ、パトリーは膝をついて、顔を覆って泣いた。


 葬式の後から、パトリーは何日も部屋に閉じこもっていた。
 食事をとることもない彼女に、兄のシュテファンがじきじきに現れ、
「来い」
 と命令した。
「……いやです」
「来い、と私が言っている」
 お前の意見など聞いていない、というような言葉である。
 シュテファンは侍女達に命じ、パトリーに無理矢理服を着替えさせ、部屋から食堂へ来させた。
 当時のクラレンス家には、当主代理・シュテファンと、その妻・シルビアと、二人の間に生まれた男の子と、パトリーと、次女のローレルがいた。
 パトリーの姉のローレルはすでに嫁いで子供までいたのだが、子供を置いてきて、クラレンス家へ舞い戻っていた。
 パトリーは所定の席に座る。
 周囲にはメイドが何人も部屋を取り囲むようにして立っている。
 パトリーは彼女たちに目をくれず、静かにスープを一口飲んだ。
 口に含んだ瞬間、風味に違和感を感じたものの、数日ろくに食べていなかったせいだろうと思い、最後まで飲み尽くした。
 異常が発生したのはそのときである。
 パトリーの手が、喉が、痙攣し始めた。
 そのせいで、この異常を訴える言葉が出なかった。
 パトリーは皿と共に、地面へ倒れた。
「……!? パトリーさん!?」
 シルビアが真っ先に寄ろうとするが、テーブルが広くて、すぐには来られない。
 皿の割れる甲高い音と共に、パトリーは地面を這う。
 喉が苦しい。苦し……い……。
 パトリーは痙攣する手でテーブルクロスをつかみ、言葉以外の方法で、医者を呼ぶよう、助けを呼ぶよう、求めようとした。
 しかし、そのとき、一人のメイドがパトリーの上へ覆い被さった。
 メイドはパトリーの首を絞める。
「……が……は……!」
 呼吸ができない。
 パトリーは朦朧としながら、自分を殺そうとする人間の姿を見る。
 そのメイドは……ヴェラだった。
 憎しみがあり余っているような表情。強く締める手に込められた、確実な殺意。
 ……自分は、この人を、そこまで追い込んでしまったのか……。
 たった一つの言葉だ。
 だが、夫と子供を亡くしたばかりの彼女には、どう響いたのだろう。
 この、首の骨が折れそうなほどに締め付ける力が、答えなのだ。
 パトリーは苦しみながら、朦朧とする意識で、思った。
 シュテファンの声、シルビアの声、姉の声、甥の泣き声、私兵の動く音を、遠くに聞きながら……。

 ――。
 目覚めたのはパトリーの私室のベッドでだ。
 ベッドの傍らには、世話をしてくれていただろう侍女が、こくりこくりと眠っている。
 窓を見ると、外は暗い。夜である。
 パトリーの部屋に飾られていた花は枯れている。何日も経ったということなのだろう。
 上半身を起こすと、頭がくらくらとした。とりあえず助かったようだが、本調子ではない。
 一体、どうなったのだ……。
 確かめるため、眠っている侍女を起こさないようにしながら、部屋を出た。
 夜のクラレンス家は不気味なほど静かだ。
 絢爛、豪勢、この家に来る者はよくそう言うが、夜の館はすきま風が吹きすさぶわら・・の家よりも寂しく、冷たい。おそらくそれが、本当のクラレンス家なのだろう。
 パトリーは壁に手をつきながら、ふらふらと歩いた。
 光が漏れる部屋から、声が聞こえた。
「……それで、ヴェラさんは……」
 シルビアの声だ。
「国外追放処分だ。クラレンス家に乗り込み、毒殺しようとしたのだ。……それでも寛大な処置だ」
 答えるのは、もちろんシュテファンだ。
「調べさせたが、どうやらあのヴェラという女、実家でも困った存在だと思われていたようだな。家が傾いたことや嫁げないことをシュベルク国皇家のせいだ、と常日頃から恨み言をこぼしていたのだから」
 皇家への反する言葉を吐くことは、もちろんながら、許されることではない。
「家族は、そのことで家から放逐ほうちくしたかったそうだが、コーマック卿から渡される生活費が莫大だったそうでな……火の車の家計では、危険思想の持ち主だとしても、手放すには惜しかったのだろう。だが、こうなれば家が手のひらを返すのも当然だ。捕らえられて、『なぜ自分が捕まる、皇家の陰謀だ』などと叫ぶような女なのだから、それまでも家族はよほど苦労しただろう」
 シルビアは肯定せず、哀れみのある表情で黙っている。
「安全性の甘さは反省すべき点だが……パトリーがあのようなことを言わなければ、今回の騒ぎはなかっただろうに」
 パトリーはびくりとした。
「シュテファン様……」
 少したしなめるようなシルビアに、シュテファンは頓着しない。
「事実だ。あれには自覚がないのだろう。貴族の妻になるという自覚が。愛人ごとき、相対しても堂々として威圧するくらいの覚悟がなければ困る。どうせこちらは正妻だ。それを最大限利用する気持ちがなければ、もし同じような男のもとへ嫁ぎ、愛人に子供がいるなら、子供の相続争いで苦しい戦いとなる」
「それはそうですが……パトリーさんは、そんなこと、ちっとも考えていなかったのですから……。貴族のほとんどが愛人を持っている、ということも知らないようですし……。知っても、きっと受け入れられません」
「だから困るのだ。相手がどういった者だろうと、正妻としてその家での権力を握ってもらわなければな。たとえ愛人が十人いようと、二十人いようと。そして絶対に、産んだ男子に、その家を継がせる。クラレンス家のためにな」
 パトリーは扉から離れた。
 それは現実の会話であった。
 パトリーの今まで見てこなかったものである。
 そして生々しく、理想のかけらもない現実の未来である。目の前に敷かれた未来の姿である。
 その後も何か会話があったようだが、パトリーは耳をふさいで、逃げ出した。


 ぐ、と腹を圧迫された。
「……痛いです」
「がまんなさい」
 ぎゅ、ぎゅ、と、姉のローレルが、パトリーにコルセットを締めていた。
 パトリーはベッドの支柱につかまり、ローレルが彼女の後ろで紐を縛っている。
 ローレルが強く縛りつけたところ、その部屋の扉が開いた。
「失礼いたしますわ。ここにパトリーがいると聞いて……」
 扉の前に立っていたのは、友人のケートヒェンだった。
 パトリーは驚いた。
「どうして、ケートヒェンがここに……。ミラ王国の、伯爵様に嫁いだんじゃ……」
 そのとき、ケートヒェンはミラ王国のニファー伯爵家に数ヶ月前に嫁いだばかりであった。
 身なりはシュベルク国の流行遅れのドレスと違い、かなり新しく、美しいドレスを身にまとっている。彼女のかぶる大きな羽がついた帽子は、確かミラ王国でも有名なデザイナーの作ったものだと、パトリーは思い出す。
 眩しいような、遠いところへ行ってしまったように思えた。
「ええ。けど、父が病気だと聞き、一時、夫に帰らせてもらいましたのよ。で、パトリーにも会おうと……」
「ええと、ニファー伯爵夫人、ですね? すみませんが、パトリーのコルセットを締めるの、手伝ってもらいません?」
 ローレルがそう言いながら、強く紐を引いた。
「痛いってば!」
 パトリーは姉の手をはたき、離れた。
「何言ってるのよ! コルセットはしっかり締めなきゃ」
「……今は舞踏会に出る気分ではないって、言っているでしょう……」
 パトリーには元気はなかった。あれからずっと。いや、でるはずがなかった。
「ただの舞踏会ではなくて、仮面舞踏会よ。せっかく姉さんが紹介してあげているんじゃない。楽しいわよ。賭博もできるし、はめをはずして遊べるわ。あんまり楽しいから、いろんな現実を忘れられるのよ」
「……忘れて、どうなると言うんです……。そんなの、ただの逃避でしょう……」
 ヴェラへいってしまった言葉がなくなるわけでもない。知ってしまったことを知る前には戻れない。
「そうよ、現実逃避。だけどそうやって遊ばなければ、現実はやっていけないわよ。ほら、いろんな貴族の男も来るわよ。一夜のアバンチュールだってできるのよ」
 パトリーは嫌悪感をあらわにした。
「そうやって……現実逃避をして、何が変わると言うんです。ローレル姉様の現実が、何か変わりましたか? 姉様の結婚生活がうまくいったんですか?」
 ローレルは眉をつり上げ、ほほをひきつらせた。
「……あんたのような子供に、何がわかるの」
 姉の結婚生活がうまくいっていないことは、こうやって実家にずっといることから、簡単に推測できる。
 彼女は何も言わないが、何も言わないからこそ、何かがたまっていることはわかる。可愛いはずの子供すら置いてきて、兄・シュテファンの叱咤に耐え、懇願してクラレンス家に戻ってきたくらいなのだから。
 ローレルには、それほど、逃げ出したかった何かがあったのだろう。
「そうよ、現実は何をしても変わらないの。変わらないからこそ、貴族は遊ぶのよ。人は酒を飲むのよ。女は夫が愛人を持っても耐えなければならないの。夫が何を言っても耐えなければならないの。意味なんて感じなくたって、表向きだけでも立派な貴族の奥様をやらなきゃいけないの。ええ、全部表向きだけは、立派に何事もないようにね! 全部耐えて、耐えて、耐えるのよ! それが女の一生よ! 逃げ場のない、遊んで現実逃避するしかないような、苦しみと忍耐と服従と隷従のね!」
 ローレルの吐き出した言葉は、彼女の鬱憤全てが詰まっていたのだろう。
 パトリーはそれを聞きながら、自分の中で、何かが固まってゆく気がした。
 小さく首を振り、言葉に出す。
「そんなの、嫌です」
 何ですって、とローレルが口をとがらせる。
「あたしは、そんなの、そんな生き方したくない。あたしはもう、結婚なんてしたくない」
 それがパトリーの結論だった。
 両親の離婚、コーマック卿との婚約と死、シュテファンの言葉、ヴェラの言葉、姉の言葉からの、パトリーの結果だった。
 ローレルはあんぐりと口を開け、傍らのケートヒェンも目を瞬いていた。
 抗いもなく、現実逃避するしかない人生を、不幸と思った。
「そんな……結婚するなんて、不幸になりたくない! あたしは、結婚なんてしません!」
 パトリーはベッドの上に置いてあった服を持って、部屋を出て行った。


 パトリーは男装姿になって、走っていた。
 レベン港にはいつもながら人が多くいた。漁船から魚を運んでいたり、市場も近くにある。
 大きな帆船の近くに、エディがいた。
 その海賊のような男は、パトリーを認識すると、目を丸くした。
「あ、あれ? 結婚するっつってなかったか?」
「…………」
 パトリーは走ってきた荒い呼吸を落ち着ける間もなく、
「エディ! あたしを船に乗せて!」
「なんだって?」
「あたし、商売のことも役に立つようがんばるから、一緒に船に乗せて、会社に入れて!」
 エディは無精ひげを撫でながら、泣きそうなパトリーを見下ろしていたが、一言断じた。
「やだな」
「! お、女だから……?」
「責任転嫁するんじゃねえよ。おれの会社に、お前が必要ないからだ」
 エディの言葉は厳しい。だけど、その厳しさに不満はなかった。
「役に立つっつーなら、自分でやってみろ」
 それは今まで思っていた未来とは違う、もう一つの未来。
 パトリーは、ごし、と目元をぬぐい、それに賭けた。
「……やってやる」
 パトリーは決める。
「やってやるわよ! あたしは、貿易商人になって、会社を作って、世界一の貿易商人になってやるんだから!」
「お、大きく出たな」
 ――そのときから、パトリーはそれ一筋にがんばってきた。
 籠を背負って行商人として売りに出た。
 いろんな苦労もあった。
 だけど、マレクや、多くの仲間と出会い、会社をたて、世界一の貿易商人を目指して……。
 そこには澄んだ美しさはなく汚れていつつも、満足のある未来があった。




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