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 第37話 懐かしき国で(1) 


 パトリーにとっての母国・シュベルク国は、数ヶ月前と変わりなく、平穏で平和でどこか抜けたような雰囲気であった。実際には宗教問題などあるのだが、表面でも平穏さを出せるのだからこの国は幸せだとパトリーは思い、そしてこの国の国民であることに彼女は誇りを持っている。
 エディの会社の船に乗せてもらい母国に帰ってきたとき、パトリーは思わず深呼吸して、体の緊張が解けてゆく気がした。海の塩辛い匂いが、懐かしさを呼び寄せる。
 さまざまな国を旅してきたが、やはり自分の国が一番だ。
 と、懐かしさにぼんやりとしている暇はないことをパトリーは思い出し、しゃきしゃきと仕事の手配を港で始めた。
 ハリヤ国のレジスタンスに大量の食糧を売ることになっており、それを船を使って運ぶ手配である。さまざまな手間のかかることがある。
 当然のことながら、ハリヤ国のレジスタンスに食糧を売るということは、ハリヤ国にケンカを売るようなものだ。正面からケンカを売るつもりはないので、これも当然のことながら、『横道』を使わせてもらい、やりすごせればやりすごすつもりである。
 危険なことであるが、商売に危険は付き物だ。特に世界的に戦争ばかりのこの現状であると、どの国についてしまえば、絶対にどこかの国から敵視されるようにできている。ただ、この運輸に関しては、特に危険であり、パトリーは少し考えることがあった。
 ――と、こういった仕事のことはだいたい整理がついたころ、オルテスが暇をもてあましすぎて、やってきた。
「終わったのか?」
「商売に終わりなんてないわよ」
「……大体ハリヤ国への船の手配ができたか、と訊いているんだ」
「大体、はね」
 細かいことはまだだ、ということを含ませたのだが、オルテスは、
「済んだのなら、首都ライツへ行こう」
と言い出した。
「首都? 確かにすごく近いけど、どうしてよ」
「クラレンス家へ行くためだ」
 思わずパトリーは息をつめた。つばを飲み込む。オルテスはそんな様子を冷静なまなざしで見ている。
「ど、して?」
「パトリーは帰らないつもりだったのか?」
「……シュテファン兄様とのことは話したでしょう。みすみす蜘蛛の巣に引っかかりに行くようなものよ」
「あいつが帰国しているという話は聞いていないだろう。いたらいたで入らずに引き返せばいい」
「…………」
 パトリーは固く唇を引き結んだ。
 帰りたくない、と思っているわけはなかった。やはりそこは自分の家である。数ヶ月間離れ、そして今これほど近くにいるというのに帰らない、というのは苦痛とも言えた。それでもシュテファンのことが、パトリーの胸に重石のように沈んでいる。
 何も言わないパトリーに、オルテスは声の調子を変える。
「実はな、おれはクラレンス家に忘れ物をしていてな。大事なものだから取りに戻りたい。ところがおれ一人だと、中に入れてもらえるか危うい。どうしてもパトリーに共に来てもらわなければならないんだ。だから、是が非でも来てもらうぞ」
 オルテスはパトリーの腕をがしっと掴んだ。そのまま引っ張ってゆく。
「ちょっ……オルテス!」
 パトリーのささやかな抵抗も、彼は気に留めなかった。馬車に乗せられたところで、パトリーは抵抗をあきらめた。


 首都ライツも変わりはなさそうだと馬車から眺めながら思ったところで、少し違和感に気づいた。何か雰囲気が違ったのだった。それはパトリーにとってはかすかに、であるが。新聞社が騒がしい気がするし、軍隊がどこか……。
 首をかしげていると、馬車はクラレンス家の広大な館の前に止まった。パトリーは門番に、緊張しながら問う。
「……シュテファン兄様はいらっしゃる?」
「シュテファン様はお帰りになっておりません。中央大陸におられるとか」
 パトリーはほっとした。この門番はパトリーにとって信頼できる人間である。
 門番は快く門を開き、馬車は館に入っていった。門から館までも少し遠い。裏門からなら近いのだが、表からだと大分遠いのだ。
 人工的な『自然な庭』を通り、館の前へ到着し、馬車を降りて、パトリーは数ヶ月ぶりに我が家に入っていった。開くとそこでは懐かしさの塊のような匂いがする。
「あらあら、パトリーさん」
 すぐに出迎えたのは、兄嫁シルビアであった。パトリーは思いもしない人物に目を丸くする。
「シルビア義姉様、帰ってらっしゃったのですか?」
 中央大陸で会ったときは、シルビアは夫であるシュテファンと共にいた。そのシュテファンが帰ってきていないというのなら、てっきり彼女もまだ帰ってきていないと思ったのだが。
「ええ。私一人、先に帰らせてもらいました。……どうやらシュテファン様の計画は失敗し、結婚はされなかったようですね。よかったです」
 よかった、と言う彼女に、パトリーは言い表せない感謝に近い安堵感を抱いた。
「シルビア義姉様……」
 強張っていた頬が緩みかけたころ、
「あら、パトリーじゃない。結婚したんじゃなかったの?」
 遠慮のない声がサロンに通じる扉の方から聞こえた。パトリーがそちらへ向く。
 女がいる。髪型はおそらく長時間かけたことが簡単に推測されるくらい凝りに凝られ、ドレスは少し派手目な、唇がとがったような女がいた。パトリーは顔をしかめる。
 少し後ろにいたオルテスが尋ねた。
「誰だ?」
「……トリント夫人。嫁いだ、あたしの二番目の姉のローレル姉様よ」
「そちらさんはいい男ねえ。あんたのオトコ? 色気づいて男を囲うなんて、やるわねえ」
 からからとローレルは笑う。
「ローレル姉様……そういう冗談はやめてください」
 パトリーは冷ややかである。
「何よ、姉に口答えするんじゃないわよ。それにしても、連れて歩くにはよさそうな見目ね。そんな小娘より、アタシを相手にしない?」
 上から下まで査定すると、ローレルはオルテスに悩ましげな視線を送った。
「ローレル姉様! ふざけるのも大概にしてください!」
 パトリーは睨む。
「つまらない子ね。頭が固くて、ヤになっちゃう。こんなのお遊びじゃない。スリルと駆け引きの快感を味わえるお遊び。遊びがなくて、こんな退屈な世の中、やっていけないわよ」
「一児の母の自覚があるんですか。ローレル姉様の言うことは教育に悪すぎます。甥っ子がどうなることか……」
「まあまあ、お二人とも。お久しぶりにお会いなさったのですから、サロンでゆっくりお話しましょう。つもる話もあるでしょう」
 二人を手際よくさばいて、シルビアは玄関でのいさかいを終了させた。
 サロンにパトリー、シルビア、ローレルの三人が座ると、紅茶と菓子が運ばれてきた。オルテスはそんな女だらけの中にはいない。おそらく忘れ物を取りに行ったのだろう。
「噂になっていたけれど、パトリー、皇子様との結婚はどうなったのよ」
パトリーは沈黙している。
「その様子じゃ……してないわよね」
 ローレルは男装しているパトリーを見る。
「このパトリーが皇子様のお妃様になれるわけがないとは思っていたわよ。どうせ向こう側から断られたんでしょ? 元々ウチは大貴族とは名ばかりの、格式はあまりない、成金なんて陰口叩かれるような家なのよ。ま、叩くのは歴史と格式だけの貧乏貴族だけどね。分不相応なんだから、落ち込まないで、次の相手を探してもらいなさいな。シュテファン兄様なら、次こそはいい相手を見つけてくれるわよ」
 パトリーはこの姉に本当のことを全部話すつもりはなかった。まったく見当違いに、慰めにならないような慰めの言葉を言っている。
「パトリーもつくづく結婚運のない人間よね。結婚がオジャンになったのって、これで二回目でしょう? 今回はしょうがないとしても、前回のはすごかったわよねえ。相手は確かコーマック卿だっけ。内縁の妻と子供あり、しかもその子供は男の子って。その婚約者が死んだときに全部発覚。挙句の果てには、あの女がうちまで来て……」
「ローレル姉様」
 パトリーは冷ややかに遮った。
「これ以上その話をするようなら、ローレル姉様の数々の不倫騒動浮気騒動離婚騒動の話をしましょうか?」
「……感じの悪い子ね。分かったわよ、この場ではあんたの前の婚約者の話はしないわよ」
「この場でなくても、金輪際しないでください」
 ローレルは肩をすくめる。この様子では聞いてくれるとは思えないが、何とか自分を抑えた。この姉と会話をするときは、常に耐久力を試される。
「それにしてもねえ、早く結婚しなさいよ。良いところに嫁ぐのが女として一番なのだから。あんたまさか、結婚なんてしない、なんてまだ思っているんじゃないでしょうね」
 人間同士には相性というものがある。この姉は、勘に障るようなことを遠慮無く言ってきて、パトリーはしょっちゅう腹立たしくなる。
 結婚したくない、と宣言する気持ちは今のパトリーにはなかった。パトリーもいろいろと考えることがあった。それを聞いたノアはどう思ったのだろう、と考えたこともあって。それでも、ローレルに見下されるように言われると、反発したくなる。
「そんなこと、ローレル姉様には関係の無いことでしょう」
 とげのある言葉だ。ローレルは身を乗り出してきた。
「え、まさかまだ思っているの? ちょっと勘弁しなさいよお。姉さん情けなくて涙が出ちゃうわ」
「あたしにはローレル姉様がそう言ってくる方がずっと不思議です。いっつも不倫だかなんだか問題を起こしまる夫婦で、こうやって何度も実家に帰ってきて愚痴もこぼしまくってシュテファン兄様に怒られるくらいで、それでなお、あたしに結婚を勧める心境というものが理解できません。そんな不幸な結婚で、よく人にそう言えますよ」
「待ちなさいよ。アタシが不幸な結婚?」
 ローレルはからかい混じりの軽薄ないつもの様子から、少し重い声で反論する。
「あんたにそんなこと言われる筋合いはまったくないわ。あんたはどこを見て人を不幸だとか決めつけるのよ」
「だって、毎回毎回不倫やいろんな問題起こして離婚ぎりぎりの夫婦を見れば、そう思います。長女のナディーン姉様だって60才のおじいさんと結婚させられて、ローレル姉様だって、シュテファン兄様に押しつけられただけで望んで結婚したようではないではありませんか」
「へえ? じゃあアンタの言う幸せな結婚というのは、自分の意思にも愛情にも相手の人柄・年齢にも問題がまったくない、ってことを指すのね。問題がない結婚が幸せだというなら、それじゃあ、どこにだってありはしないわよ。あんた、一握りの人しか登れない神様の住む山の天辺が、幸せな結婚だとでも思っているの? ナディーン姉様だって、他の妹だって、あんたに不幸だと決めつけられたら我慢できないでしょうよ。
 結婚なんてねえ、端から見て中身がどうかなんて全部分かるわけがないでしょ。不幸か幸せかは自分で判断することで、人に不幸だなんて言われるのは、腹が立つわよ。少なくともアタシは不幸な結婚だなんて思っていない。あんたの言う問題ばかりでもね。アタシはアラン派だからできないけど、離婚したとしても不幸な結婚ではなかったと言うでしょうよ」
 真面目な反論に、パトリーは口をつぐんだ。
 パトリーの心中にあるのはまさに、意外、の一言である。
 ローレルは結婚してからも何度も実家に戻ってきている。自分の不倫問題、相手の不倫問題で。帰ってくるたびに愚痴をこぼされていたので、パトリーはずっと彼女の結婚は不幸なものだと思っていた。
 確かに、問題がなければないほど幸せな結婚、と思っていたのは事実だ。
 だが、さまざまな問題を起きていて猶、不幸でないときっぱりと言う気持ち、というのは理解しがたかった。
 結婚というものは、思ったよりもずっと奥深いものかもしれない。
 ローレルは体を引いて、少し顔を背けた。
「……柄にもなく語っちゃったわね。あーやだやだ。マジメに話すのって堅苦しくてやなのに。そうよ、アタシのことはどうでもいいのよ。パトリーの結婚の話でしょ? シュテファン兄様の選ぶ人とパトリーが、ことごとく運命からして相性悪いっていうなら、アタシが相手探してあげようか?」
「いいですって」
「そうはいかないでしょう。結婚は大事なのよ。これでもし嫁ぎ遅れてしまったら」
 ローレルは笑うように軽く続ける。
「みっともないわ」
 ずしん、とパトリーの心に突き刺さるように響いた。みっともない、というのはローレルが抱く感情だ。感情に対して怒るわけにもいかない。
 ただこういったことを聞くと、社会や人の目、というものを否が応でも知るような気がする。結婚なんてしたくない、と思ったときから、社会的に好ましいと思われないことは分かっていた。しかし、こうして今いろいろなことに悩んで揺れているときに社会の目というものを突きつけられると、考えてしまうのだった。
「……姉様のために結婚するんじゃないわ」
 パトリーはなんとかそう言って、虚勢を張った。
「まあ、にくったらしい」
 ローレルが続けて何かを言おうとしたところ、扉が開いた。
「母さん、もう飽きた。家に帰りたい」
 ローレルの小さな息子であった。
「飽きた? ほら、ここにお菓子あるから、もうちょっと待ちなさい」
 母親らしくローレルはクッキーを取る。だがその息子は頑迷に首を振り、「うちに帰りたい」と言う。
 しょうがないわね、とローレルとその息子は、トリント家へ帰って行った。パトリーに最後まで結婚の話を釘指しながら。
 姉が帰ると、パトリーにはどっと疲れが出てきた。
 ほとんど黙って二人の会話を聞いていたシルビアは、紅茶を入れ直した。
「ローレル姉様が帰っているなんて、思いもよらなかったわ……。今回はただ遊びに来ていたようだけれど。シルビア義姉様、うちの姉ながら迷惑をかけてすいません。愚痴とか、こぼしまくっていたでしょう。本当に迷惑をかけて……」
 シルビアは柔らかく首を振る。
「いいえ。ローレルさんは社交的な方だからいろいろなことを知っていて、話すと面白いですから。迷惑だなんて。義理とはいえきょうだいなのですから、うちとけて話してくれて嬉しいのですよ」
 できた人だ、とパトリーは思う。
 パトリーにとってシルビアは、女性としての非の打ち所がない存在である。たとえば料理や裁縫などパトリーが劣等感を抱いているものも得意であり、それだけでなく、パトリーを押し込めようとせず理解しようとしてくれる。ある意味実現できないし、あまりに遠すぎて実現しようとすら思わない理想である。
 そんな彼女が兄シュテファンの嫁であることは、喜ばしいことなのか。それとも、これほど素晴らしい彼女が、あの兄の嫁になったことは同情すべき悲劇なのか。
「……シルビア義姉様は、シュテファン兄様と結婚して良かったのですか?」
 言ってから気づいた。パトリーはシュテファンの妹である。その夫の妹に、彼女が本音を言うかどうか。
「――私は良かったと思いますよ。子供も授かりましたし」
「本当に?」
「ええ」
「本当に本当に、あの兄ですよ?」
「ええ。私はシュテファン様と結婚したことを後悔もしていませんよ。シュテファン様がどう思っているのかは別ですけれどね」
 シルビアの左手の薬指を見ると、そこには指輪があった。彼女がクラレンス家にやってきてから、ずっと外したところを見たことのない指輪だ。
 視線を感じたようで、シルビアは左手に右手を添わせた。
「これを外そうかと思ったことはありますよ。けれど、抜けなかったんです」
 シルビアは苦笑するように微笑む。
「もう二度と抜けないものなんです。それを嬉しいと、私は思います」
 指輪はそれほどきつそうには見えなかった。……抜けないのではなく、抜かなかったのではないだろうかと思う。パトリーはその光る指輪が誇らしげに見えた。
「……不思議です。あの兄を見限らないシルビア義姉様が聖人のように見えます」
 シルビアは慌てたように手を振る。
「そんな、私はパトリーさんが思っているほどいい人間ではありませんよ。そう見えるなら、少し私にはシュテファン様について推測していることがあるためなのですが」
「推測、ですか?」
 そのとき、扉からオルテスがやってきた。忘れ物とやらを取ってこれたのだろうか。
「オルテスさんも、どうぞこちらに。今紅茶を入れますから」
 シルビアは紅茶の用意をし始める。オルテスは辞退しようとしていたが、その前にシルビアが用意し始めたので、ルースを連れてやってきた。
 オルテスは菓子を食べなかったが、その代わりにルースがお菓子をつついて遠慮無く食べる。
「それで、シュテファン兄様についての推測、というのは?」
 パトリーが気になって問う。
「ええ。あくまで推測で、証拠も何もないのですが」
 そう前置きして、シルビアは話し始めた。
「おそらくシュテファン様は、パトリーさんを、と言うより他の妹さん方も、結婚させたいのではなくて、結婚させることで、この家から追い出したいのです」
 パトリーは無表情で、シルビアの語る推理を聞いていた。


「あの話をどう思う?」
 クラレンス家を出て、オルテスがパトリーに尋ねてきた。
 パトリーには喜びも怒りも悲しみも楽しそうな様子もない。ただ戸惑いに近いものが顔に浮かんでいる。
「……あれはあくまでシルビア義姉様の推測よ。本当かどうか分からないのだから、何とも言えないわ」
「それもそうだな」
「…………。あ、そうだ。オルテス、忘れ物は見つかった?」
「忘れ物?」
「そのためにクラレンス家に来たんでしょう? ……もしかして、嘘ついたの?」
 じとっと疑いの目で見上げる。
「いやいや。どこにおれが嘘をついた証拠が?」
 証拠なんて言い出した時点で限りなく黒いとパトリーは思う。
 二人は馬車に乗っていたのだが、首都・ライツの中央部に近づいた頃、
「あ、あたし実は行きたいところがあるの。ちょっとこの辺で降りさせてもらうわ」
「何だ。暇だからおれもついて行ってもいいぞ」
「ううん。これはあたし一人が行かなくてはならないことよ」
 パトリーは両手を組み合わせるようにして握りしめた。
「そうか。なら、どうせ暇だしこの辺りで待っているさ。馬車代も節約になるだろう?」
 ただ待つ、と言われたならパトリーは断っていただろうが、馬車代の節約、と言われてはパトリーは断らない。
 そこまで考えてオルテスが言ったであろうことが分かるから、パトリーは時間の経過を思い知ったのだった。オルテスが自分のことをそこまで理解するほど一緒にいたのだと。オルテスと一緒に旅した日々は長かったのだと。
 姉たちとの結婚話が思い返される。たとえばオルテスと結婚したなら、と考えてしまうのは、良いことなのか悪いことなのか。
 これから行く現実的なことを話すであろう場所を思うと、良い悪いよりもただの夢見がちな感傷のような気がした。オルテスにまったく脈がないことが分かっているだけに。
 気を引き締めるつもりで、手を強く握りしめた。手の中には名刺があった。




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