奪ふ男
ジョーカー 2−16 (2/6)
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考えているうちに、どれほど時間が経ったのだろうか。
ふいに、僕の名前を呼ぶおばさんの声で、顔を上げる。
「遅れちゃってごめんね。あの先生若いせいか、時間がかかっちゃって。……あら?」
おばさんは後ろにルリを連れていた。おばさんが持っていた青い帽子を被っていて、その下にはちらりと白いネットのようなものが見える。うつむいて、表情はよく見えない。
おばさんがためらいながら、尋ねてきた。
「そちらのお嬢さんは、お知り合い?」
隣にいる西島に目を向ける。すぐさま西島はふざけて答えた。
「智明君の彼女やってる、西島ひとみって言いまーす」
「冗談です。西島さんはただのクラスメートです」
怒りをこらえつつ、すぐさま僕は否定したが、おばさんはあっけにとられたようだ。ルリはうつむいたまま黙っている。ルリがどう感じているのか判別つかない。
「あら、まあ、そう。……でも困ったわねえ。うちの車は荷物を乗せているせいで、四人しか乗れないのよ。人数が……」
「結構ですよ。あたしは智明君と二人で帰るんで!」
どうしてだ。
「僕はルリと帰るから、西島さんは一人で帰れば?」
「ひどーい。あたしを一人にするなんて」
さっきから勝手に一人で喋りまくってたんだから、満足もしたろう。一人で来たんだから一人で帰れ。僕はルリを待っていたんだ。ここまで来て、どうしてルリと話もできずに帰ることになるんだ。
「タクシーでも呼んであげるよ。方向だって違うんだから、別々の方がいいんだよ」
「それくらいならここの駐車場に留めてるウチの車で帰った方がマシじゃない」
西島が頬をふくらませて不満顔を見せるが、僕はさっさと追いやりたくて仕方がなかった。
「家の人がわざわざ車で送ってきてくれたなら、なおさら僕たちと帰るわけにはいかないじゃないか。ね。ほら、またね」
「そうね。さすがにそれは、ご自宅の車で帰った方がいいわね」
おばさんが同調してくれて、西島の反論を封じ込めてくれた。
西島は最後まで不満げな顔を崩さず、駐車場の方へ大股で歩いていった。
おばさんも、「じゃあお父さんを呼んでくるわね」と、ルリを預けて先に行った。
残った僕と、ルリ。
常にざわめいている待合室の中で、ルリはうつむきがちに静かなままだった。帽子のせいで、余計に表情が見えない。
「……座って待ってる?」
少し焦った僕の問いに返ってきたのは、無言。一歩も動く気配がない。
「そうだね。すぐおばさんは戻ってくるもんね。座る必要はないよね」
「…………」
「傷は、どう? 今も、痛い?」
これもまた、何の反応も返してくれなかった。
僕はことさら、現状の中で楽観的な考えを口にした。
「あ、そうだよね。今は僕と会話するだけで疲れるよね」
怪我を負って、元気だってないに違いない。僕と話すだけでつらいのだろう。
向こうにいた子供たちが、僕たちの方へと近づいてくる。どうやら鬼ごっこをしているようだ。まてーとか、やあだよとか、叫びながら近づいてくる。
最も子供たちが近づいてきたとき、隣からぼそりと聞こえた。
「……どうして来たの」
騒ぎの中の聞き間違いかと思った。
だって、暗いその言葉には、僕が来たことをいやがっているような雰囲気さえ見えたのだから。
…………。そんなわけ、ない。
ないに決まっている。震えそうになる手をごまかすように、ルリに見えない場所で強く握りしめる。
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