奪ふ男
ジョーカー 2−9 (2/5)
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そう言いながら、ルリは僕のベッドの縁に当たり前のように座った。ルリが座ったところが少し沈む。ルリは真ん中に座ったわけではなく、意図して他の人間が隣に座れるような場所に座っていた。
僕に、ここに座って、ってことか。僕のベッドに、すぐ隣で。
でも僕に向けるルリの顔は、何かをほのめかすものなど、かけらもなかった。立ちつくす僕に、座らないの、と首を傾けて尋ねてくる。
わかってたけどね。嬉しいような、少し残念な気持ちだ。
僕は一瞬だけ躊躇しながらも、隣に座った。
二人の重みのためか、ベッドから、ギ、と音がした。
こうして二人きりの家で、二人きりの僕の部屋で、ベッドの上で、すぐ近くで、無粋にもルリは陸奥のことを話し出す。正直なところ、陸奥などどうでもいいのに。
「あのね、陸奥先輩に、別れたい、って言ったの。でも、別れたくない、って言われちゃって、別れてもらえなくて」
どうやらこの前聞いた、ルリと友人の相談事と一緒らしい。
その時感じたことをそのままに口にした。
「無視しろよ。そんなの」
「できるわけがないでしょ。軽率にも付き合うことになったのは私のせいだし、それに先輩、私が別れを切り出してから、スランプになったって……」
「スランプって?」
「音楽だよ。演奏とか歌とか作詞とか、全然うまくいかなくなっちゃったそうなの。だから、ライブとかもお客さんがあまり入らなくなって、チケットとか売りさばけなくて、音楽活動のお金とかも困るようになってきたらしくて」
ルリはうつむいて顔を覆った。
スランプになったからって、そんなに急に客がいなくなるか? と思うのは、素人の考えだろうか。そもそも僕は音楽にも深く興味ないから、そのスランプとかよくわからない。スランプとそうでないのと、演奏や歌がそんなに違うものか?
まあ、違うからそういう事態になったのだろうけれど。
僕は同じ言葉を使った。
「そんなの無視すればいいよ」
陸奥の音楽活動など上手く行こうが行くまいが、どうでもいい。
ルリは顔を覆っていた手を離し、僕を一度強く睨み上げた。そしてまたうつむいた。
「できるわけがないでしょう。私のせいなんだよ」
小さな声だったけれど、悲痛なものが滲み出ていた。
僕だったら、無視をする。陸奥がどうなろうと知ったことじゃない。
「私、恋愛感情はないけど、先輩の音楽は尊敬してる。その音楽がだめになるなんて、私、何か力になりたい」
僕は冷え切った目でルリを見やった。そしてゆっくりと手を伸ばし、ルリの頬に触れた。そして、ひそめた声をその耳に届かせるように顔を近づける。
「だから付き合い続けるっていうの」
僕の声に、言葉に、ルリは震えた。
「えっ、だか、ら、私も先輩も、どちらも笑って別れるために、私は……」
笑って別れる? 何て馬鹿なことをルリは言っているのだろう。
僕は心の中で笑えてきた。どうでもいいと思ってない限り、そんな別れなんてあるものか。
少なくとも僕なら、ルリと付き合って――想像も考えることもしたくないけれど――別れるなんてことになれば、笑うことなど絶対にできない。絶対に、絶対に。すがりつくだろう。どんな手だって使うだろう。だけど笑って別れるなんてことは決してない。
「無駄だよ、ルリ」
断定的に言うと、ルリは反発した。
「そんなことない。そのために、私は」
「無駄」
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