奪ふ男

ジョーカー 2−8 (5/5)
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「…………。いや、今日は数学と生物を勉強するから、いいよ」
 落胆を隠して、僕は笑顔を作った。
 ふと、本当にふと、一つの考えが、思いつきが、頭に浮かんだ。
「……どうぞ、家に入って」
 ありがとう、と笑ったルリは僕に促されて、門扉を通って、階段を昇る。
 ルリと僕が入ったところで、玄関を閉める。
「……僕の部屋の、机近くの棚に教科書とか置いてる。僕はちょっとすることがあるから、勝手に入って探していてよ」
「わかった。智明の部屋って、階段を昇ったすぐのところの部屋だよね?」
「そう」
 ルリは何度も僕の家に来たことがある。部屋の場所ももちろん知っているし、何度も入ったことがある。慣れ親しんだように、ルリはすたすたと部屋に向かった。
 僕はそれを見送ってから、急いでリビングの奥のクローゼットへと向かう。開けると、普段使わないものばかり。そこから目当ての箱を取り出し、開ける。
 するとあった。持つとわかる鉄の重み、そのこすれる鉄の音。鉄の鎖を掬いだした脇に、小さな南京錠もあった。
 手の中にある鎖と錠の重みに、僕は思わず笑んだ。
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