奪ふ男

ジョーカー 2−2 (2/3)
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「えっ?」
「僕とルリが一緒にいて何の問題があるんだよ。家も近くて小学校も中学校も同じ幼なじみなんだから」
「金原に訊いてるんじゃないって。谷岡さんが、どうして、金原と一緒にいるのかって訊いてんだよ」
 榊は僕でなく、ルリを見ている。むっとする。僕が答えるのとルリが答えるのと、何がいけないっていうんだ。
 ルリはわけがわからなさそうでありながら、素直に言った。
「え、智明の言うように幼なじみだから、っていうのはおかしい? 前にも言ったと思うけど」
「…………。いや、おかしくないけどさあ……」
 榊は眉根を寄せながら、頭の後ろを掻いた。納得した顔ではない。ルリが僕と一緒にいることのどこが悪いんだ。
 彼の質問の意図が掴めず、僕とルリは顔を合わせた。
「んー、一緒だったっていうんじゃあ、中学もこんなだったわけ?」
「こんな、って?」
「谷岡さんに友達がいない状態だったのか、って」
 ルリの表情が凍った。
 こいつは何を言い出すんだ。
 僕が話題を変えようと口を開きかけたのを、ルリが腕を引いて留めた。そしてルリは深呼吸し、強ばった顔に無理に笑みを貼り付けて答えた。
「中学の時は、友達はちゃんといたよ」
「ふうん。じゃ、高校になってから金原以外、友達いない状態、ってわけか」
「そう……だね」
 笑みを貼り付かせることが不可能になったのか、ルリは視線を下に向ける。
 榊はちらりと垂れた目で僕を見た。
「――ところで、水泳部の一年でさ、今度カラオケ行こうって話になってんだけど、谷岡さんも来ねえ? 部員同士、仲良くなるきっかけになると思うけど」
 なんて、榊は余計なことを言う。
 ルリは顔を上げた。希望に満ちた光がルリの目に宿る。
「わ、私……」
 上ずったルリの声に、あかるいものが混じっていた。
「やめた方がいいよ、ルリ」
 僕はルリの言葉を鋭く遮った。
 ここまでの努力を水の泡にしてたまるか。
「あんまり仲良くないんだし、居たたまれない微妙な空気を味わうだけに終わると思うよ。ルリが行くことに、他の人だってどう思うかな」
「別に俺は何とも思わないけど」
 榊が口出しする。行った方がみんなに迷惑だ、とルリに思わせようとしてるのに。邪魔な奴だな。
「榊がそうだって、他の人たちがどう思うかはわからないだろ。みんな楽しくやっているところにルリが入ってくるのは、ルリだけでなく向こうだって気まずいだろうね。それなら行かない方がマシじゃないかな」
「…………。そう……かもね」
 途端にルリは意気消沈する。
 心の中で、僕はうなずく。
 そうだよ。それでいいんだよ、ルリ。
「あのさあ!」
 榊は我慢できないとでも言いたげに、声を荒げた。
「谷岡さんは友達作ろうって気、あんの? 多少気まずくても入っていくしかないじゃん。今日の水族館だってさ、こいつと一緒にいるより、クラスのグループにでも無理にでも入れてもらってた方が良かったんじゃねえの? こーゆー行事って仲良くなるためにあるようなもんじゃん。誰も谷岡さんを嫌ってるって話じゃないんだしさ」
 本当に余計な奴だな。しかも僕を『こいつ』呼ばわりか。
 僕は目を細め、ルリをかばうように前に出て榊と対峙した。
「さっきからルリにしつこいね。榊に関係ないだろ」
「ないけどさ……」

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