奪ふ男

ジョーカー 2−1 (4/4)
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 僕は榊を睨み付けた。瞬間、気配に気づいたように奴は僕を見てきたので、にっこりと笑っておいた。
 ルリは榊に話を振った。
「家、こっちなの?」
「いや、ちょっと遠くのゲーム屋に行く途中でさ。今日発売日だから」
「ふうん。そういえば、最近部活に出てないね」
「あー俺そんな部活に張り切る気ないから。暑いときに泳いで涼めればいいと思って入っただけで、わざわざ身体作るためにランニングとかしたくないし」
「やる気ないねえ」
「ま、最初からユーレイで行かせてもらうつもりだから。ところで、何で谷岡さんと金原が一緒にいるわけ? マジ喧嘩する直前ってんなら、すぐに帰るよ? 脱兎の如く去るよ?」
 ルリはぷっと吹き出した。
「マジ喧嘩なんてしないよ。私と智明は幼なじみなんだよ」
「へ。ほー……」
 短い反応だけど、何かを含んでいるような気がして、僕の癇にちょっとだけ障った。だけど眠たそうな榊はその心情を露わにしない。腕時計を見て、
「早く行かなきゃゲームが売り切れるから、行くわ。んじゃさよなら、お二人さん」
 会話を切り上げ、言い捨てるようにして、榊は自転車に再び乗って行った。
 
「なんかゆるい感じだけど、榊君って面白い人だよね」
 僕は今日榊と出くわしたことも会話も全て、無意味なこととして忘れたかもしれない。くす、と笑いながらルリがそう言わなければ。
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