奪ふ男
ジョーカー 1−6 (2/4)
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「ルリ、話を聞いてよ」
こうしてルリが無視し続けるのは、どう考えても、鈴山とのこと以外にありえない。
事態の打開には、鈴山と付き合ってない、と真実を言うしかないのかもしれない。でもそれを言うと、ルリが再び鈴山とよりを戻す危険がある。
ルリはあまりに懐が深く、許すことができる人だ。昔、ルリの持っている大きなぬいぐるみを欲しい、と駄々をこねた時――ルリがあまりにそのぬいぐるみを手に入れたことを喜んだものだから、嫉妬のあまり欲しがったのだけど――、彼女は最初は嫌がったものの、僕に譲った。
こんな例はいくつもある。ルリは僕のことを何でも許してくれた。
ルリは真実を知れば、僕の代わりに、鈴山を許すのかもしれない。鈴山すら許しかねないくらい、ルリは優しすぎる。そして鈴山と再び付き合うのかもしれない。
それはすごく嫌だ。想像するだけで嫌な、背筋がぞわっとする悪夢だ。
でも、だからって、僕はこのままルリに無視されたくない。
「ねえルリ、話をさせて」
懇願し、僕は目の前を歩くルリの肩に手をかけた。だけど次の瞬間、ルリは無言でそれを払ったのだ。パン、と手の甲を打って。
僕は呆然として、打たれた手を見た。ルリにこんなことをされたのは初めてだった。
ルリは何も言わず、険しい顔でまた一人で前を進む。
「なにあれ。感じわるーい。サイアクー」
後ろから西島が、さも僕に同情し、ルリを非難するように言った。どうでもいいことだが、西島も同じ高校を受験する。
「ああいう人と一緒の高校受験したくないなあ。ねえ、智明君。こっちの私立は併願にして、公立狙おうよ。感じ悪い人が受けない公立の高校にさ」
出願日に何を今更。
それに、ルリがいない高校生活なんて……。
そう思った時に、はっとした。
もし落ちたら、ルリと一緒の高校生活を歩めないんだ。
ルリも僕も、この出願する私立高校が本命だ。ルリは僕より頭がいいから、きっと受かるだろう。
このまま中学を卒業し別々の高校に通うことになったら、と思うとぞっとした。今でさえろくに会えない現状で、会えたとしてもこうして無視される。元通りの関係に戻るためには、時間と場所が必要だろう、多分。
違う高校にでもなったら、家が近かろうが、これから一生会えない気がする。
結局、その日ルリは僕と一言も口をきかなかった。それが、僕の焦りに拍車をかける。
ルリと一緒の場所にいたい。ルリと一緒に話がしたい。
その単純な願いを叶えるには、高校に合格するしかない。
受験前日に、久しぶりに家族揃って夕食を取った。
母さんと父さんと僕の、金原家の食卓。こんなことを思うのも何だけど、違和感を覚える。三人で一緒に食事を取ることに対して。あまりにめったにないことだから。
受験前日の僕に、父さんが問うた。
「それで智明は、どこを受験するんだ?」
端的に高校名を答えると、少しだけ父さんは首をかしげた。知らないらしい。そんなに有名な高校でもないし、父さんはここが地元というわけでもないから、知っているはずもない。
あえてここで説明する気になれず、僕は油っこいカツを食べていた。
「うん。まあとにかくな、智明が自分で決めて自分で選んだ高校なら、父さんはどこでもいいと思ってる。がんばれよ」
多分応援のつもりの、適当に感じる父さんの言葉。
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