奪ふ男

ジョーカー 1−5 (5/5)
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 ああそうだった、ただの友達だったね。その冷たい言葉ひとつで、ルリは僕たちの関係を表したんだった。
 僕よりも鈴山を優先して、僕のことなんて本当にちゃんと見てくれなくて。
 それでも、どうして誰より求めてしまうんだろう。その目が僕だけを見て欲しいと思ってしまうんだろう。
 頭の中がごちゃごちゃとしている。ねえ、お願いだから、鈴山のことなんて忘れて。胸のうちにある感情を抑え、僕は許すから。だからこれから言う嘘を、ルリも許して。
 僕はひたとルリを見据えた。
「鈴山君は、僕と付き合うことになったんだ」
 ルリは大きく目を見開き、口許をわななかせた。
 鈴山とのことを完全に断ち切らせるため、僕はそう言った。
 僕が鈴山のことを何とも思っていない、鈴山が一方通行に思っているだけ、なんて馬鹿正直に告げれば、ルリはもしかしたら鈴山に希望を持つかもしれない。
 どうせ僕が否定しようと、噂は広まっている。いずれルリは知るんだ。
 お願いだから、鈴山のことを一切断ち切って。


 ルリは、今までずっと僕を許してきた。どんな時も、どんな言葉にも。
 もう仕方ないなあ、と頬をゆるませてくれたのだった。
 どんなに大喧嘩をしようとも、次の日には、けろっといつものとおりだ。
 押し倒して、拒絶された時だって、次の日のルリに気にした様子はなかった。普段通りに会話を交わし、いつも通り、仲良くやれていた。
 僕はもう、鈴山のことを考えるだけでうんざりしていた。これで奴のことは僕たちの間に横たわらないのだ、断ち切れたのだ、と思うと、爽やかな気持ちにさえなれる。
 そして、いつもの通り、ルリは僕を許してくれて、二人の日々が再び始まるのだと、思っていた。


 次の日の朝。いつもどおり、スズメが電柱の上で鳴いている。
 僕が家を出て鍵を閉めると、家の前をちょうど同じように登校しようというルリが通りかかっていた。
 僕は笑顔で挨拶した。いつもの通りに。
「おはよう、ルリ」
 当然、同じような挨拶が返ってくるものだと思っていた。
 だけどルリは得体の知れないものを見るような顔をして、何も言わず、紺のスカートをひるがえして走り去ってしまった。


 結局のところ、ルリが何でも許してくれるなんて、僕の驕りだった。
 その日、学校に行って、ルリのいる二組に行ってみても、ルリに会えなかった。休み時間、昼休み、放課後、全て。
 ルリは、僕を避けていた。
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