奪ふ男

ジョーカー 1−2 (3/3)
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「智明のことなんて恋愛感情を持って見たことなんて、一度もない! ずっと一緒にいすぎたから、そんな目で見れないの! もう私たちは家族も同然で、恋人になるとか、あり得ない!」
「…………」
「でも、西島さんたちより、ずっと智明とは繋がりを持ってる。そんな刹那的な汚い関係より、ずっと精神的に強い繋がりを持った友達だもの、私と智明は」
 ルリは声を震わせていた。
「…………。ふーん、別にそれならいいけど」
 西島はどこか皮肉気味にかすかに笑いながら、僕のいる方向とは別方向に、去っていった。

 僕は、呆然と、していた。ただその場から立ち去り、人気のない階段横で、座り込んだ。影が濃く差している、薄暗い場所だった。
 走ってきたせいで、僕は息が荒かった。息を整えようとしながら、今聞いたばかるのことを思い返す。
 わけのわからないことだらけの言い争いだった。
 だけど、大事なことが、ひとつあった。
 ルリが僕のことを、恋愛感情を抱けない、そんな目で見れない、家族も同然で、恋人になるのはあり得ない、と言ったこと。
 確かに聞いた。大声でルリが叫んでいるのを聞いた。聞き間違いではあり得ない。
 僕は混乱していた。パニック状態になった。
 どうしてどうしてどうして!?
 僕はそんなのじゃ満足できないのに。もっともっと近づきたいのに。ルリの一番近くにいたいのに。ルリの一番近くに僕がいてほしいのに。
 ルリは、僕と同じ気持ちであるはずだった。その前提が覆されたことは、世界が反転するのと同じことだ。嘘だ嘘だ、と思う。だけどルリの言葉が耳から離れない。心の中で否定しても、ルリの言葉は変わらない。ルリが僕に恋愛感情を持てない、ということに変わりがない。
『ずっと一緒にいすぎたから』
 ルリの言葉が、僕の頭の中で響き渡る。
 もうちょっと、離れるべきだった……?
 だって離れることなんて我慢できなかった。クラスが違うだけで腹が立って、授業中だって隣のクラスにいるルリのことを考えていた。離れることなんて、考えてもいなかった。
 だって――そんな――僕は――
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