翼なき竜

31.未来の夢(6) (8/8)
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 最期だから、彼に何かを言いたかった。今までありがとうとか、ずっと愛していた、とか。でも彼が心残りを作りそうだったから、やめた。
 忘れてもいい。今自分が死んでも、立ち直り、変わらずにあかるい場所で生きていてほしい。
 ただ進め。ただ前を向け。
 心の中でつぶやき、レイラはゆっくりと足を進める。階段を降りるとき、靴音が響いた。
 カツン。
『生きて、何かをしたいとか、ないの!?』
 もし、それを願えるなら。
 カツン。
 もし奇跡が起こり、ここを切り抜け明日も生きられるなら。
 カツン。
 ふ、と強く目を閉じた。

 ――夢が見たい。
 不安も恐怖も苦しみも痛みも嫌悪も悲しみもない、未来の夢が見たい。
 かつて一度イーサーの背で見た美しく平穏で死の恐怖もない幸せな夢を、現実に、もう一度見たい。

 一瞬の後、目を開けたレイラは最後の階段を降り立った。目を瞑って思い描いた夢は目の前にはなく、死が見える王道しかレイラの前には敷かれていなかった。
 自嘲気味に笑むと、レイラは大剣をすぐにでも抜けるように気を張りながら、歩き始めた。
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