翼なき竜
30.未来の夢(5) (3/3)
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騎士団にいた頃の、あの陽光の下にいた自分は、遠く、遠くなってしまっていた。
――それでも、昔なじみを脅してでも、イーサーに真実を知ってほしくなかった。きっと彼は、苦しむから。
* * *
それからたくさんのことがあった。
宰相となったイーサーを深く知り、恋人関係というやつになった。
良いことばかりではない。
支配欲、戦闘本能に負け、戦争が起こった。
それにより、残りの片翼の力は、ほとんど失われた。もう死は間近になった。混乱と恐怖に陥っていたレイラに、ギャンダルディスが言った。『王を辞めなよ』と。
それを受け入れ、辞めようとしたレイラに、宰相であるイーサーと父・エミリアンが止めようとした。
エミリアンは、自身の命を使ってでも、レイラを止めようとした。
死を前にした父の姿に、道はないのだと悟った。レイラの前には、王の道しか存在しない。
レイラの心に焼き付くように残った、父の、死。
……今まで、どうして死ななければならないんだ、と思ってきた。
だけど父を殺した今、自分は食われて死んで当然なんだ、とすんなり思えた。
これは罰だ。
戦争を起こし、たくさん殺した。
父を殺した。
その罰だ。
悲しむ権利も、嘆く権利も、苦しむ権利も、悩む権利も、死にたくないと思う権利も、存在しないんだ。
これだけのことをしたのだ。きっと地獄に堕ちるだろう。
だけど、父の死んですぐ、教会にいたレイラを、イーサーは肩を抱いて慰めてくれた。
「これで、よかったんですよ」
と。
彼の考え方から、こんなことは受け入れられないはずなのに。
抱きしめてくれた。生きるものの温かさを、教えてくれた。
涙が、こぼれそうになった。
イーサーが心から必要だと思った。心から、すがりつきたいと思った。
短い残り時間、一緒にいてほしい。彼の温かさの中で、まどろんでいたい。
それは……許されない……のだろうか。
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