翼なき竜
27.未来の夢(2) (2/5)
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粉を振りかけたデュ=コロワは、子どものように目をきらきらさせ、ギャンダルディスを見て、観察している。あまつさえ触ったり測ったりしている。
『ねえ……これ、なんとかならないの?』
べたべたされて暑苦しいのか、うんざりするようにギャンダルディスが言った。レイラは苦笑する。
「あとちょっとだ」
デュ=コロワが振り向いた。
「? 何があとちょっとですか?」
「いや、何でもない。……そろそろギーはお昼寝の時間なので、ゆっくり休ませてやってくれないか?」
竜の巨大な前足を持ち上げようとしていたデュ=コロワは、とても残念そうに下ろした。
厩舎を出ると、狭い放牧地がある。牛や羊の放牧地のように見えるが、ギャンダルディスのための場所だ。
柵に沿ってレイラがデュ=コロワと歩いていると、ちょうど柵の外の道を走る男がいた。
「あれ、アンリじゃねえか」
汗の玉をたくさん浮かばせているのは、レイラの天敵、ブッフェンだった。
デュ=コロワは口を曲げ、思いっきり顔をしかめている。
「……ブッフェン。こんなところで会うとはな」
「こんなところでたぁなんだ。お前がこっち来たんだろ。……て、おやおやおや、王女殿下」
ブッフェンは、デュ=コロワの陰に隠れていたレイラを見た。
レイラはきっと睨む。
「ブッフェン……ここで会ったも何かの縁。勝負だ!」
レイラは剣を突きつける。
ブッフェンはにやりと笑い、腰にある剣に手をかける。
「手加減しないぜ?」
おいちょっと待て、とのデュ=コロワの制止も聞かず、二人は戦い始めた。
そのときの勝負はブッフェンが勝利したが、その一年後、レイラはようやく勝ちを得た。
それは何百回とやった試合のうちのひとつだったが、大きな意味のある一勝でもあった。ブッフェンはもうすぐフォートリエ騎士団長となることが決まっていた。その男に勝つということは、確実な己の強さを知ることとなった。
レイラとブッフェンはその日の夜、騎士団のみんなで飲み屋に行った。
酒を頼んで、レイラは満面の笑みを浮かべた。
「今日は人生最良の日だ! 戦勝会だ、おごってやるぞ!」
騎士団員から歓声が上がる。
「……わたしにとっちゃ、残念会だがね」
肩肘をついて、むすっとして面白くなさそうな顔をする目の前のブッフェンに、レイラは大声で笑う。
「さんざん罵倒してくれたな。今日は敗北の味を思い知れ」
「うっせえな。アドバイスだってしてやっただろうが。恩を忘れやがって」
「こうして今、酒をおごってやってるんじゃないか。あ、アドバイスしてやろうか? 左の守りが弱いんだよ」
「てめえ……」
勝者の余裕を見せて言うレイラに、ブッフェンはこめかみに血管を浮かべている。
大量の酒とつまみが運ばれてきた。レイラはワインが好きだが、今日はたくさん呑むのが主眼なので、麦酒だ。騎士団にいる連中は、騒いで呑み始めた。
何度も何度も戦っているうちに、レイラとブッフェンは仲が良くなった。他の騎士団員とも。
負けるたびに腹立ちと戦意を湧かせられ、ブッフェンのことが嫌いだった。が、ブッフェンもまた最初はレイラのように弱く、努力して強さを手に入れた、ということをデュ=コロワから聞かされて、嫌いという感情は消えた。
デュ=コロワとブッフェンは、違う騎士団所属ながら、いろいろと縁があるようだ。腐れ縁みたいなものらしい。
そういえば、とレイラは思い出した。
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