翼なき竜

25.宰相と葉(2) (7/7)
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『……そう。君が綿密に分析をして、平和な国を築くよりも、竜族を全滅させる方が可能性が高いと判断したなら、そうしてもいいよ。他の竜族は困るだろうけれど、僕だけは一番に簡単に殺されてあげる。僕にとってレイラは娘なんだ。娘の命を救うためなら、何をしても僕だけは許すよ』
 それはもはや子どもの言葉ではなく、長く子を見守ってきた親としての慈しみの言葉だった。
 イーサーは、この竜に食べられたときを思い出す。あの痛み、思い出して震えるあの恐怖は、一生忘れられないだろう。それでも『ひと咬み』だけだったらしい。骨も、肉も、全て、食べられるというのはどれほどのことか。想像が、できない。
 ギャンダルディスの言葉を支えにするつもりはなかった。これから何をするにせよ、自分の肩のみに責任を背負うつもりだった。
 再び背を向けて、イーサーは歩き出した。背に残照がかかり、目の前の芝生に長く影が伸びている。
 その芝生は、夕日で染め上げたような紅の葉が散っていた。ステッキを使い、ゆっくりと踏みしめて歩く。
 イーサーの顔の横を、葉がゆるやかな風に乗って、通り過ぎる。
 これからしようとしていることは、枝から離れてしまった葉を地面に落とさせまいとするような……不可能なことかもしれない。
 それでも――
 ――それでも、落ちて欲しくない。
 風に乗って遠くへ飛んでゆく葉を、イーサーは目頭を熱くさせて見入っていた。
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