翼なき竜

24.宰相と葉(1) (5/5)
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『今すぐ王城の『竜の間』に行って隠れて話を聞けば、今まで知らなかったこと、これから起こることが知れるよ。……レイラが絶対に知らせたくないことがね』
 低く重い声で言うと、子どもは机を回り、窓枠に足をかけた。窓に柵はない。
 危ない、と言う前に、ギャンダルディスはそのまま窓から落ちた。ここは二階だ。
 慌てて窓から下を見る。
 しかし地面に子どもの姿は影も形もなかった。


 あの不思議な子どもの言うことを、幻聴だったと片付けることはできた。
 しかしどうにも気にかかってしまった。
 幻として片付けるのは後からでもできる。『竜の間』に何もなければ。
 と、宰相は王城に向かい、ひそかに『竜の間』に向かった。
 『王の間』の向かいにある『竜の間』付近には、緑の兜の近衛兵が立っていた。つまり、近くに女王がいるということだろう。
 部屋から離れすぎているところに立っている。
「宰相閣下」
 普通の声で呼び止められて、宰相は慌てて口の前に人差し指を出した。
「……陛下は『竜の間』に?」
 ささやき声で尋ねると、近衛兵も小さな声になった。
「はい、ブッフェン騎士団長と一緒に。でも、部屋からできるだけ遠くにいるように、との命令です」
 ブッフェンが王城に来ることは事前に聞いていた。レミーのことで報告があるとかで。
 なるほど、近衛兵たちには聞かせたくない話なのだろう。
 あの子ども言っていたのも、これ関連の話だろうか。
「すみません、私が呼び戻すまで、ここを離れていてください」
「えっ」
「女王陛下も離れるよう命令していたでしょう? その角を曲がったところでいいですから」
 デリケートな問題でもある。へたに聞かれて誤解されても困る話題だ。
 近衛兵たちはしぶしぶながら、少し先の角を曲がって行った。
 宰相は『竜の間』に向かった。ここはいつも女王が鍵を持っていて、閉じられている。客に王城を案内するコースには含まれていない部屋だ。
 その扉が少し開いた。
「気持ち悪い絵ですねえ。こんな絵を気に入るのは、アンリくらいなもんでしょうなあ」
 ブッフェンが顔をしかめて絵を見ていた。
 見ている絵は、竜が竜を食べるもの。小さな竜が大きな何頭もの竜に食べられている残虐な絵だった。
「ブッフェン、レミーの報告というのは?」
 女王の声がした。宰相が身体をずらすと、中央にあるアルマン王の像の近くに彼女はいるのが見えた。
「ん、ああ。最初はレミーは陛下を親だと思っていたわけだろ。それが嘘ってことになって、混乱していた。けど、ちゃんとゆっくり話して、リリトという本当の母親が命を懸けてお前を庇ってくれた、って話をすると大人しくなった。今は大分元気で仲良くなってる」
「そうか、よかった」
 と言って、女王はほっとしている。
「……ブッフェン。レミーのことはありがとう。これからもよろしく頼む」
「頼まれなくてもちゃんとやるさ」
 宰相は、ブッフェンは面倒見が良い、という女王の言葉を思い出した。ブッフェンの言葉はぶっきらぼうだが、信用できそうな温かさがあった。
 女王はぽつりと口にする。
「……もう一つ、頼みたいことがある」
「ん、なんだ?」
 女王はブッフェンの見る絵と同じ絵を仰ぎながら、言った。
「私の死後のことだ」
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