翼なき竜

23. 女王の子(6) (6/6)
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「レイラがあんたに惚れてるからだよ。自分に苦しいことがあったって、側にいてほしい、あんたに苦しんでほしくない、って思ったからだろうが」
 宰相は襟をつかんでいた手をゆるめた。
 楽に息ができるようになって、ブッフェンは、ふう、と息を吐き、口ひげをなでる。そしてちらりと視線をよこした。
「……それであんたはどうなんだ?」
 ブッフェンは口ひげをなでたまま、かすかに笑った。答えを知っているような笑みだった。
 
 
 ひょこひょこと杖をついて歩く宰相に、臣下や部下は、大丈夫ですか、という目を向けたり声をかけたりした。
 杖をついてゆっくり歩いていると、王城はこんなに広かったか、と思う。いつまでもいつまでも目的の場所に辿りつかない気がして、焦りがつのる。
 杖を持つ腕と脚に力を入れ、前に進んだ。
 目的の部屋の前には騎士がいた。彼らは宰相を認めると頭を下げ、両側から扉を開け、宰相が部屋に入ると閉じた。
 そこには、こめかみに指を当て、うつむいている女王がいた。横顔には憂いがある。
 杖の先をじゅうたんの上に押し当て、重心をかけて、脚を前に出す。
 宰相の存在に気づいた女王は顔を上げ、慌てて駆け寄る。
 近寄る彼女に手を伸ばし、腕の中に閉じこめる。彼女は息を呑んだ。
「……少しでも嫌だったら、言ってください」
 もしそうなら、二度と顔を見せない。彼女の前から存在を消そう。
「嫌じゃないよ」
 彼女は宰相の背に手を回し、ぎゅっと服をつかむ。
 その手の温かさに、言葉にできないような思いが募ってくる。
「好きです」
 陳腐な言葉しか出てこない代わりに、強く彼女を抱きしめる。
「好きです、好きです、好きです」
 日の光のように溢れる想い。
 腰を引き寄せ肩を抱き、囁く。
 胸に顔をうずめる彼女の耳は赤くなっていた。

「結婚しましょう」
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