翼なき竜

23. 女王の子(6) (1/6)
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 身体全体が重かった。どこも動かす気になれない。
 そのままじっとしていると、どこからか声が聞こえる。
 力を入れ、まぶたを押し上げた。
 すると刺すような光が飛び込んできて、思わずまばたきを繰り返した。
「イーサー! おお、目を開けたぞ! イーサー、わかるか、父さんだぞ」
 視界に、父の顔が飛び込んでくる。ふっくらとした父の顔は、近づきすぎると暑苦しい。
 父は泣いていた。鼻水を垂らして、わんわんと泣いていた。
 医者がすぐさまやってきて、宰相に質問を投げる。意識はありますか、痛いところは、と。
 体中が痛かった。首を上げると、身体は包帯だらけになっていた。
 しかし意識も記憶もちゃんとある。
 べそをかきながら父が説明する。
「よかった、よかったな。食べられたお前を、女王陛下が助けてくださったんだぞ。竜の口の中に剣を押し込み噛ませないようにして、お前を助けてくださったんだ。もう一週間もお前は眠っていたんだぞ」
 聞く内に、助かったのか、ということがおぼろげながらわかってきた。それに、ここが自分の館の、自分の寝室だということも。
 いつまでも「よかった、よかった」と言っていた父は、ふと扉の方へ目を向ける。
 扉は開いていた。
 そこから顔だけが覗いている。……ぱっと明るくなった女王の。
 …………。
「陛下!?」
 起き上がろうとして、雷が通り抜けたような激痛が走った。
「……っ!!」
「起きるな、まだ全然回復していないんだから……」
 ベッドに沈み込むと、女王が慌てて駆け寄ってくる。
「……本当に、よかった。……うん」
 穏やかな彼女の頬には、片翼の竜がいた。消えたはずの片翼が、戻っている……。
「ごめんなさい。私のせいで……」
 陛下のせいでは、と言いたかったけれど、舌がもつれた。
「無茶をしないでくれ。自分の命を大切にしてくれ。お前が死んだら、私はどうしたらいいんだ」
 女王は宰相の髪を優しく撫でる。
「宰相と話をしても、構わないかな?」
 振り返った女王の言葉に、泣きべそをかいたままの父と医者はうなずいて、部屋を出て行った。

 女王は近くにあった椅子を引き寄せた。
「さて……あまり無理をさせたくないから、手短にしようか」
 宰相は首を横に振る。
「しっかりと、お話を聞かせてください。あれからどうなったのですか?」
 さまざまな疑問がある。それらの答えを聞かせてほしい。
「……まず、あの後、私と近衛兵たちが力を合わせてギーの口を開けさせ、すぐに医者を呼んで、治療させたんだ。骨折がひどいから、あまり動かないようにな」
「どうして……竜が襲ってきたのでしょう……」
 チキッタの花は食べさせたはずなのだ。しかも、『泰平を築く覇者』である女王を狙うとは、考えられないことだった。
 女王は視線を逸らした。
「……錯乱でもしたんじゃないかな。調査中だ。……あと、ナタンは死んだ。他に近衛兵を襲った奴らは、三人死んで、五人捕縛した。奴らを取り調べた結果、吐いたよ。叔父のギョームが絡んでいた」
 宰相は目を見開く。
 北の塔に幽閉されているギョームが。
「幽閉されて、どうやって」
「ギョーム派の貴族が力を貸したらしい。動機はわかりやすいな。私を殺し、ギョーム自身が王位を奪取するか、もしくはあのレミーという子を使って王権を得るか、だ。どちらにせよレミーとの謁見のとき、私の命を狙う計画だった」

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