翼なき竜

22.女王の子(5) (2/4)
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 大きなカーペットの道の一端に女王の座る玉座がある。その左横に宰相が立ち、右に愛竜のギーが鎖につながれている。
 いつもなら女王は愛竜をなでながらこの場にいるものだが、今日は違った。彼女はまっすぐ王座に座り、真正面を食い入るように見ている。
 そのカーペットの反対側は大きな扉へとつながっている。
 門の左右に立つ兵が、ラッパを構えた。
 巨大な扉が左右に開かれるとき、宰相は思わずごくりとつばを飲み込む。
 その扉に不釣り合いな、小さな少年が、顔を出す。
「レミー様のおなりです」
 本来、こういう場に現れる人物に関して、どこそこの領主だとか、どこそこ国の王子だとか、きらびやかな説明があるものである。
 ただ名前を読み上げるだけであったことに対し、傍観者たちはざわめきを起こした。
 入ってきた少年は黒い髪で、緊張した面持ちである。きょろきょろと左右にいる貴族達を見上げ、関心の目に少しおびえている。
 その少年の後ろに、老人がいた。古い杖をつき、白いひげと白髪で顔のかくれた老人は、少年を補佐するように、後ろに付き従っている。
 レミーを育てたという老人である。
 当初、レミーだけを招こうとしたが、レミー自身が断固として拒否したという。この老人と一緒でなければ行かないと、レミーは強く、交渉役のデュ=コロワに告げた。
 その流れで今、老人はレミーの後ろに従っている。レミーの斜め後ろにいて、黙って彼の後ろを追い、離れない。
 レミーはまっすぐカーペットの中央を歩いた。最初は近くにいた貴族達を珍しそうに見上げていたが、歩くにつれ、目の前の人物だけを見つめることとなる。
 目の前の人物――それは玉座にいる女王に他ならない。
 宰相はちらりと隣の彼女を見た。
 彼女は冷静な表情を崩さず、近づいてくる子どもを見つめている。
 レミーの足が止まり、たどたどしい動きで礼をした。後ろの老人も、それにならった。
「あ、あの、ぼくは……」
 レミーは緊張に声を震わせる。あまりに緊張しすぎたのか、言葉が止まる。
「その……これを、見てください」
 レミーは懐から、何かを取り出した。白い……布。そして小さな、鈍い銀色に光るもの。
 おそらく、マガリの薔薇を刺繍した絹と、女王の王女時代のシールリング……身元を保証するものだ。
 ただ、場が遠すぎて、ここからは見えない。
 女王は立ち上がった。歩き出す彼女の後ろに付き従おうとすると、彼女は手で留めた。
「ここで待っていてくれ」
 女王は幾分か緊張した声音で押しとどめる。
 ……親子の再会なのだ。ここで待つべきだろう。
 宰相は複雑な心境でうなずき、そこに留まる。
 彼女は一歩一歩、階段を降りながら、レミーに近づく。
 レミーの強張っていた表情は、明るいものへと変化していく。
 女王は全身を緊張させていた。遠くから見ていてもわかる。過敏なほどに、気を払っている。
 あと二歩、という近くまできて、レミーは自分から女王に近づいた。
 宰相が複雑な心境ながら、淡く微笑もうとしたとき――
 レミーの後ろにいた老人が、杖を上げた。杖を引っ張ると先が鞘のように抜け、白く細い刀身が現れる。
 老人はそれを振り上げ、女王に向かった。
「危ない!!」
 宰相は思わず叫ぶ。
 女王は自身の大剣で、老人の杖の剣を防ぐ。
「きゃあああ!」
 近くにいた貴族達は、失神したり、逃げようとしたり、パニックとなった。

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