翼なき竜
18.女王の子(1) (3/3)
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デュ=コロワは最初に、「女王陛下に会わせてくれ」と言った。宰相に、何のために来たのか、何の問題が起こったのか説明せず、ただ「女王陛下に会って至急話さなければならないことがある」と言った。
宰相は説明した。女王が病気であること。精神的な疲労が原因であろうこと。
これ以上精神的な負担をかけると、さらに病気が悪化しかねないこと。
「ですから、私に話してください。火急の用件で、国政に関わることであるならば。もしくは、陛下が病気から回復されるのを待ってください」
「…………。陛下はいつ頃回復される?」
「それはわかりませんが、侍医によると、一月以上は長引くのではないか、と」
精神的なものが原因の病気は、治りが遅いそうだ。
デュ=コロワは舌打ちをして、黙った。
彼は黙考し続ける。それは長い時間だった。悩んで悩んで悩んだ末、デュ=コロワは、
「……宰相。絶対に誰にも盗み聞きされない、二人きりで話せる部屋を用意してくれ」
と言った。
王城の端にある部屋を用意すると、まずデュ=コロワは周囲に人がいないかを確認して回った。
角部屋であり、壁も厚い。周囲の部屋に誰かがいても、聞こえることはないだろう。窓の外はマロニエの木があるだけで、視界は見渡しやすい。
それでもデュ=コロワは確認して回った。それほどまでに極秘の話かと思うと、宰相の顔も引き締まる。
十分すぎるほどに確認した後、二人は向かい合って、しかも声が漏れないよう、失礼にあたるほど近寄る。
デュ=コロワは小さな声で、言ったのだ。
「女王陛下にお子がいる」
窓の外はあかるく静かで、蝶が舞っていた。
蝶はマロニエの白い花を取り囲むようにたわむれ、羽根を震わせていた。
――何を言っているのだ?
最初に聞いたとき、まずそう思った。聞き間違いだろうかとも。
「なん、ですって?」
ようやく、それだけ声が出た。
デュ=コロワはささやくような声で、話し始めた。
「……女王陛下の子だと公言する子供が、我が領地の町に現れて……」
それが、レイラ=ド=ブレンハール女王の御代を揺るがす重大事件の幕開けだった。
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