翼なき竜
13.英雄の場(1) (5/5)
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「私を留めていたいか? ――だったら私を退位させてしまえばいいんだよ。王でなくなれば、いくらでも命令するがいい。ゴセック家にせっついて、次の王を決めさせろ」
それではまったく意味がない。
「陛下が女王として元通り仕事をしていただければ済むんです! 私が、補いますから!」
女王とエミリアンの話を聞いて、宰相は考えた。
一人で正しく公平で厳しくいられる――神のような人間なんて、どれだけの数がいるのか。
宰相であるということは、神でない人間の王を補うことではないか。
諸国征服を命じた彼女は悔いていたが、それは、彼女を補うべき宰相の咎でもあった。責めて済む話ではなかった。
女王は黒い双眸で宰相を見上げる。
「……今更、元通り、なんて言うのか。そんなことができるものなら……『元通り』……そんなことができるものなら……」
女王は自嘲気味に遠い目をして笑いながら、馬車に入っていった。
そしてそのまま、馬車は走ってしまった。
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