翼なき竜

12.無翼の雨(2) (5/5)
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「……たとえそうだとしても、言ってしまったことは変わらない。たとえ私があの言葉を撤回しても、言ってしまったことは、あれだけの臣下達の耳に届いてしまったのだから。私がああいう考えをしていると、思われてしまったのだから……。そして、あんなことをもう言わないとは、私は否定できないんだ」
 雨は一時期の激しさは収まってきた。
 代わりに大粒の雨がぱらぱらと降りそそぐ。
「私はもう、自分を信じられない。一度あんなことを言ってしまった以上、私は自分を、信じることができない。なあ、そんな王の下で、そんな王の国に住みたいか?」
 宰相は立ち上がりつつ、一瞬つまってしまった。顔だけ女王は振り返っていた。
「お前の反応を見て、確信したよ。私は――王をやめるべきだって」
「え――王を、やめる……?」
「ああ。私は退位する」
「たい、い……!」
 徐々に、足下から衝撃が登ってくる。
 彼女が王をやめる。やめる、やめる――
「そんな……そんなこと……やめてください!」
 宰相は思わず叫んでいた。
「…………。なぜ?」
 女王はごく単純な問いを残し、竜の丘を降りる。
 宰相は追いかけた。理由も理屈も頭の中は追いついていなかった。だけど、やめてほしかった。それだけは強く思っていた。
 追いかける宰相の目の端で、竜が女王の決断に満足して、うなずいているように、見えた。
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