翼なき竜

11.無翼の雨(1) (6/6)
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 飼育員ならば、ロルの粉を必要以上に振りかけてやってきて、丘の近くで引き返す。
 だが、その人物は丘を走って来る。ロルの粉の臭いもしない。
「ギー! ギー!」
 悲痛な呼び声に、ギーは首を上げる。
「ギー、いるんだろう!? ギー……ギャンダルディス!」
 正式な名を呼ばれれば、その人物が誰かは確定する。ギーの正式な名を知るのは、現代の人間では、一人きりだからだ。
 はたして、やはり走り寄ってくるのは、女王レイラであった。
 竜はゆっくりと腰を上げ、木の下から彼女のいる方へ、一歩出た。
 レイラは青ざめた顔をしている。右の頬を押さえる手は、確実に震えている。
 竜の前まで来ると、女王はその手を離した。
「ギャンダルディス! 私の、私の翼は全て、失われたか……?」
 ごろごろとした雷の重低音が響く。
 竜は眠りから覚めて開けたばかりの青い瞳で、彼女の頬を見つめる。
 そして、竜の口の奥にある喉の器官をすり合わせ、高音を作り上げた。
『まだ少しだけ、残っているよ』
 直後に、冷たい雨が降り始めた。
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