翼なき竜
5.城下の夕(1) (6/6)
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「行きたいところ? お忍び?」
元気よく女王は首を前に振る。
女王はデュ=コロワに顔を向けた。
「ということで、デュ=コロワには、宰相のアリバイ作りをしてもらいたい」
「……そんなサボリを見逃す理由なんてありませんが」
デュ=コロワの言葉は冷たかった。
彼は忠臣とはいえ、ただ女王を甘やかす人間ではない。
女王を妹のように思っている、というより、娘のよう、というのが近いのかもしれない。
「理由ならあるさ」
にやりと笑って、女王は右手を挙げた。親指にはリングがかかっており、そのリングにはひとつの鍵があった。
金色の複雑な形状の鍵だ。
「これは『竜の間』の鍵。この王の間の向かいにある部屋だ。いつもは誰も入れない。貴重で珍しく学術的価値の高い竜の絵がいくつも飾られている。――どうだ?」
女王はくるくると鍵を回す。リングと鍵がぶつかり、金属音が鳴る。
宰相はおそるおそる、デュ=コロワの顔を見た。
ああ、やっぱり。
デュ=コロワは回る鍵を細い目を精一杯開けて凝視して、ごくりと唾を飲み込んでいた。
「――それで、どこへ連れて行こうというのですか?」
女王に連れられ歩き出した宰相は、周囲に兵士がいないかを確認しながら、まるで泥棒のように廊下を静かに歩いていた。
前にいた白樺の森だろうか、池だろうか、それとも地下のワインセラーか。まさか北にある女王の居住する私的な部屋はないだろう。
あれこれ考えていると、女王はいとも簡単に言った。
「ん? 城下だよ。城の外に出て、デートしよう」
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